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『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

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山体崩壊と火砕流シーン



 ハリーたちはトラックを見付け、溶岩流の上を渡って麓まで降りてくるが、すでに住人も州兵も退去した後で、廃墟のようになっていた。ハリーは、調査所のスタッフが借りていた部屋から、ELF(超低周波発信機)を持ち出す(これが彼らの命を救う)。だがその時、山体崩壊するほどの大爆発が起きる。そして火砕流が発生し、トラックで逃げるハリーたちを迫ってきた。


 山頂が大爆発するショットは、ダンテズ・ピークの頂上だけを表現した、高さ2.7mのミニチュアが予備を含めて4つ用意され、ロサンゼルス郡パームデールの砂漠に設置された。そして、全部で17台のエアキャノンが準備され、その内の5台を同時に用いる。このエアキャノンのノズルには、前述のドリラーズ・マッドが大量に詰め込まれ、噴煙を表現する。


 さらにファイアーボール・モーターに、少量のナパーム(ガソリンと黒色火薬の組み合わせ)とモルタルの破片が入れられ、溶岩の赤みを加えるように設計された。この量が多過ぎると、60年代の火山映画のようになってしまうため、灰色の噴煙の中が微かに赤く光っているようにするのがコツである。


 それぞれの仕掛けは起爆のタイミングが微妙に異なるため、全てが同時に起こったと見えるようにズレを計算して、これを毎秒500フレームで高速度撮影する。噴煙は45mの高さまで舞い上がり、監修の火山学者たちも太鼓判を押す出来となった。


 ハリーたちが乗るトラックに火砕流が迫るシーンでは、ヴァンナイス空港の格納庫内に7分の1スケールの町のミニチュアセットが組まれた。背景はグリーンスクリーンになっており、マーク・ロバーツ・モーションコントロール社製のモーションコントロールカメラMILOを用いて撮影されている。背後から迫る火砕流はCGで描く予定で、ある程度開発も進んでいたが、レンダリングが遅く納期に間に合わないと判断されて中止された。代わりに噴火と同様、エアキャノンでドリラーズ・マッドを吹き出す手法がここでも選択され、モーションコントロール撮影されている。逃げているハリーたちのトラックは、12分の1スケールのラジコン模型を、同一のカメラ軌道で撮影してコンポジットされた。


 そしてこれに続く、衝撃波で町が破壊される場面は実に見事で、火砕流の到達に合わせて、建造物のミニチュアが文字通り粉々になっていく。現在であれば、CGで簡単に表現できるが、模型をここまで細かい破片にまで壊すのは至難の業だ。当時アメリカで活動していたミニチュア制作会社は、現在その多くが廃業しており、同様な映像を求めても再現は難しいだろう。



※前編はこちらから



【参考文献】

Cinefex, No.69, March 1997

Cinefex, No.71, September 1997

[DVD]ダンテズ・ピーク デラックス・エディション



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、早稲田大理工学部、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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