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『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『ダンテズ・ピーク』CG未発達の時代に、迫力のディザスターシーンはどう作られたか?(後編)

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溶岩流の表現



 ハリーはレイチェルと共に、2人の子供たちを助けに彼女の家に向かう。だが子供たちは、山中の一軒家に住む元義母のルース(エリザベス・ホフマン)を助けようと、車で山中に向かっていた。ハリーたちも後を追いかけ、命からがらでルースの家に到着する。だがルースは、頑なに下山を拒否する。


 しかしルースの家を溶岩流が襲い、5人はボートで湖上に逃れる。ところが湖水は強酸性化(*7)しており、金属製のボートに穴が空いて浸水し始める。さらにスクリューも溶けてしまって、ボートは進まなくなり、ハリーは上着で覆った手で漕ぎ始めた。だが、もう少しで岸に到達するという所でボートが沈み始める。責任を感じたルースは、水に飛び込んでボートを岸まで押していった。しかし重度の火傷を負い、下山の途中で彼女は亡くなる。


 マクラングは当初、溶岩流の表現にもフィジカル・エフェクトを用いる予定だった。そして蛍光塗料などを用いる方法(*8)がテストされたが、早々に断念され、すべてCGで表現すると決まる。現在のCG業界では、自然現象などを表現するエフェクトツールとして、サイドエフェクト・ソフトウェア社製のHoudiniが広く用いられている。だが、本作が制作されていた時期には、発売が間に合わなかった。そのためデジタル・ドメインの開発スタッフは、Houdiniの前世代となるPrismsをベースにして、粘性の高い流体が表現できるツールを開発した。溶岩の質感には、ピクサー・アニメーション・スタジオ製のソフト RenderManを用いて、独自のシェーダーを書いている。結局、OKが出るまで10ヵ月を費やすことになったが、何とか間に合った。



『ダンテズ・ピーク』(c)Photofest / Getty Images


 ルースの家の壁を溶岩が突き破り、5人が脱出する場面は、スタッフが最も苦労したシーンとなった。撮影監督のアンジェイ・バートコウィアクは、ウォレスに建設された家のセットで、俳優たちのアクションをステディカム撮影した。デジタル・ドメインのスタッフは、ここにCG溶岩の流れを合わせるため、建物や地形の形状を正確に記録した。


 ロサンゼルスに戻ったスタッフは、映像をトラッキングしてカメラモーションを割り出し、ヴァンナイス空港に再現されたセットをモーションコントロール撮影した。この際に、家の壁や家具の1つ1つを別撮りし、36ものレイヤーに分解している。こうして得られた素材に、オリジナルのプレートから抽出された人物や背景の森と湖、炎、煙などをコンポジットして、史上初のデジタル溶岩流が完成した。


*7 実際にインドネシアのイジェン山の火口湖では、pH0.5という恐ろしい酸性度が観測されている。


*8 『ボルケーノ』(97)では、食品の増粘剤に使用されるメソセル(メチルセルロース)に、低起泡性界面活性剤や、赤・オレンジ・黄色の蛍光塗料を混ぜた人工溶岩を、紫外線透過性のアクリル板に流し、下からブラックライトで照明して表現された。表面のひび割れは、黒のラッカーをスプレーしている(このアナログな方法は非常に効果的だったため、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(05)にも応用された)。ただし引きのショットでは、CGの溶岩も併用されている。




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