ホークスやワイルダーに通じる古典的なプロット
ファレリーの映画は、取り上げるネタの過激さが取り沙汰されがちだ。『2番目のキス』も、熱狂的なレッドソックス・ファンという特殊なキャラクターが主人公だが、一癖も二癖もある男女がぶつかり合って葛藤しながら、やがてありのままの相手を受け入れていくようになる。これはハワード・ホークスをはじめとする「スクリューボールコメディ」の系譜であり、大昔からある恋愛映画の大体の大筋だ。ファレリーが扱っている、キワモノの様に見られがちなネタは、プロットだけを取り出してみると、実はトラディショナルなものが多い。
例えば『メリーに首ったけ』。怪しげな探偵が尾行している女性を好きになってしまい、依頼主と騙し騙されの激しい争奪戦を繰り広げるという大まかなプロットは、まるでビリー・ワイルダーの映画でありそうな話だ。その場合、ベン・スティラーはジャック・レモン、マット・ディロンはウォルター・マッソー、キャメロン・ディアスはシャーリー・マクレーンという感じだろうか。想像しただけでワクワクしてくる。
『メリーに首ったけ』予告
実際の『メリーに首ったけ』は、このプロットに対して、徹底したお下劣系のユーモア、動物虐待ネタ、ブラックジョークの味付けが満載で、アメリカ公開時は全米映画協会からR指定を受けたほど。ちなみに大笑いさせてくれる犬の虐待エピソードも、レオ・マッケリー監督の『新婚道中記』(37)に出てくる芸達者な犬のギャグにとてもよく似ている。演奏者が画面の中に登場してBGMを奏でるアイデアは、『昼下がりの情事』(57)だ。こういったギャグにも、伝統的なアメリカ映画の流れに沿った処理が施されているのだ。