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『2番目のキス』伝統的なアメリカ映画の後継者・ファレリーに、映画の女神が微笑んだ瞬間

(c)Photofest / Getty Images

『2番目のキス』伝統的なアメリカ映画の後継者・ファレリーに、映画の女神が微笑んだ瞬間

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ファレリーにしか撮ることが出来ない冒頭2分



 『グリーンブック』が多数の賞を獲ったことは、ファレリーのファンとしては嬉しいことだ。しかし、それでも不満は残る。ファレリーは、ゴールデングローブの監督賞ではノミネート止まり、アカデミー賞に至っては監督賞にノミネートすらされていないのだ(プロデューサーとして作品賞、共同脚本として脚本賞を受賞している)。では演出家としてのファレリーはどうなのか?


 例えば『2番目のキス』の冒頭のシーン。親の離婚が原因でボストンにやってきた7歳の少年ベンは、慣れない環境の中でふさぎ込む日々を過ごしていた。心配した母親は、ベンを遊びに連れて行ってくれと、叔父のカールにお願いする。しかしカールは子供がいないため、ベンをどこに連れて行けばよいのか分からない。そんなカールがベンを連れて行ったのは、ボストンの象徴「フェンウェイ・パーク」、ボストン・レッドソックスのホームスタジアムだ。シートに着くと「スポンジ売りのアル」(この映画の狂言回し)が挨拶をしてきた。カールは楽しそうに選手に怒声を浴びせている。実はカールは、年間でシートを契約するほどの筋金入りのレッドソックス・ファンなのだ。開放感に溢れたスタジアム、選手たちの躍動感みなぎる姿、満員のスタジアムの熱気、生まれて初めての体験は、ベンを一瞬にしてベースボールの虜にする。その日の試合はレッドソックスが勝利を収め、お土産に分厚いチーム年鑑を買ってもらう。ベンはまんまと「最も哀れな神の創造物、レッドソックス・ファン」になり、つらい思いをしていたベンにとって、レッドソックスはかけがえのない存在となる。


 今説明したこのシーンを描くのに費やされた時間はキッカリ2分。たった2分なのである。キャスティング、カメラの動き、ロケーションと光の処理、的確な編集、モノローグと音楽の挿入タイミング、何てことないように見えて、全てが驚くような巧みさで演出されている。このシーンを2分でここまで上手くまとめる監督は、今はファレリー以外には見当たらない。1950年代までのアメリカ映画が当たり前に備えていた、「最小限の要素で最大限の効果を得る」という伝統的なストーリー・テリングの技術。ファレリーはそれを継承した希少な監督である。



『2番目のキス』(c)Photofest / Getty Images


 『グリーンブック』がオスカーを受賞した際、ハリウッドの典型的な「白人救世主」の物語だという批判があった。その一方で、その年最も観客に愛される映画の一つとなった。それは、ファレリーの映画の中に、伝統的なアメリカ映画の持つ普遍的な要素が詰まっていて、多くの人がその楽しさを再発見したからではないだろうか。


 今となっては希少な「伝統的なアメリカ映画の正当な後継者」が、ファレリーなのだ。




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