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飄々とおかしくて哀しい『林檎とポラロイド』が浮き彫りにする、人の感情と記憶

©2020 Boo Productions and Lava Films

飄々とおかしくて哀しい『林檎とポラロイド』が浮き彫りにする、人の感情と記憶

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記憶と感情が淀みなく流れ出す時



 だが、このまま飄々としたタッチで進むかと思われた本作は、終盤になって興味深い現象に包まれる。あるセリフを起点に、主人公の心の内側が突如として明確になって流れ始めるのだ。


 映画を観終わった時、これほど「もう一度、最初から見直したい」と感じたことはない。自分がいかに目の前の表層的なものしか見ていなかったかを痛感するのだ。おそらくもう一度観ると、見落としていた記憶や感情の連なりが、この映画にはもっとたくさん見つかるはずだから。


 ひとつの気づきを与えられることで、私たちの視野や見え方は変わる。人への理解や共感、寄り添い方も大きく変わる。それに伴い『林檎とポラロイド』も今では最初の印象とすっかり異なり、感情と記憶がしっかりと結びついてやさしく昇華を遂げたかのようだ。こういう巧みな仕掛けにも、ニク監督の類稀なる才能が滲み出ているのである。



『林檎とポラロイド』©2020 Boo Productions and Lava Films


 聞くところによると、ニク監督は、主演俳優の役作りのために『トゥルーマン・ショー』(98)と『エターナル・サンシャイン』(04)という二本の映画を手渡したという。


 また監督自身、スパイク・ジョーンズやチャーリー・カウフマンらの手掛けた映画に惹かれるとも述べている。なるほど、特殊な物語構造を用いて人間そのものを見つめようとする精神は、『林檎とポラロイド』にも少なからず受け継がれていると言っていい。


 ニク監督は次回作で、一気にアメリカ進出を果たす。プロデューサーにはケイト・ブランシェットが名を連ね、現時点でキャリー・マリガンが主演することも決まっている。まさに真価が試される最高の場。デビュー作で証明された独創性を存分に活かしつつ、人間の本質について我々に大きな気づきをもたらす映画となることを期待せずにいられない。



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 




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『林檎とポラロイド』

3月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他、全国順次ロードショー!

配給:ビターズ・エンド

©2020 Boo Productions and Lava Films


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