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『林檎とポラロイド』ランティモスやカウフマンの後継者。’84年生の新鋭監督が示した、異常な日常の作り方

©2020 Boo Productions and Lava Films

『林檎とポラロイド』ランティモスやカウフマンの後継者。’84年生の新鋭監督が示した、異常な日常の作り方

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『林檎とポラロイド』あらすじ

「お名前は?」「覚えていません」──。バスの中で目覚めた男は、記憶を失っていた。覚えているのはリンゴが好きなことだけ。治療のための回復プログラム“新しい自分”に男は参加することに。毎日リンゴを食べ、送られてくるカセットテープに吹き込まれた様々なミッションをこなしていく。自転車に乗る、ホラー映画を見る、バーで女を誘う…。──そして新たな経験をポラロイドに記録する。ある日、男は、同じプログラムに参加する女と出会う。言葉を交わし、デートを重ね、仲良くなっていく。毎日のミッションをこなし「新しい日常」にも慣れてきた頃、買い物中に住まいを尋ねられた男は、以前住んでいた番地をふと口にする…。記憶はどこにいったのか? 新しい思い出を作るためのミッションが、男の過去を徐々に紐解いていく。


Index


ランティモスとリンクレイターの薫陶を受けた新鋭監督



 映画好きがまだ観ぬ作品に対して「そそられる」ポイントはいくつもあるが、コアになればなるほどスタッフやそのバックグラウンドに興味が出てくるものだ。そういった意味で、『林檎とポラロイド』は映画好きの観賞欲を刺激する“情報”に満ちた映画といえる。


 ギリシャ=ポーランド=スロベニア合作の作品で、監督・共同脚本はこれが長編デビュー作となるクリストス・ニク。それだけではピンとくる人は少ないだろうが、彼がヨルゴス・ランティモス監督とリチャード・リンクレイター監督の現場で助監督を務めていたと聞くと、にわかに心が沸き立ってくるのではないか。具体的には『籠の中の乙女』(09)と『ビフォア・ミッドナイト』(13)とのことだが、この2作品の現場を経験していた人物がオリジナル脚本で長編デビューとなれば、さぞかし作家性の強い映画なのだろうと妄想が膨らむ。


 さらに興味を掻き立てるのは、かのケイト・ブランシェットの存在。『林檎とポラロイド(原題:Mila 英題:Apples)』(20)が第77回ヴェネツィア国際映画祭で上映された際、コンペティション部門の審査員長を務めていたブランシェットが本作と出合い、エグゼクティブプロデューサーとして参加することを望んだというのだ。もう出来上がっている作品に対して、である。


『林檎とポラロイド』予告


 なかなかに稀有なこのエピソードもまた「どれほどの作品なのだろう」とこちらの期待を高めてくれるが、その“続き”も鮮烈だ。なんとブランシェット、ニク監督の才能に惚れこみ、自身がプロデューサーを務める新作映画『Fingernails(原題)』の監督・脚本にニクを抜てき(『林檎とポラロイド』の共同脚本を担当したスタヴロス・ラプティスもセットで)。制作会社は『キャロル』(15)の製作にも名を連ねた、ブランシェットが立ち上げたダーティー・フィルムズ。さらに主演は、主演映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』(20)でプロデュースも兼任したキャリー・マリガンが務める。


 長編2作目にしてこの地位にまで上り詰めたスピード感。これもまた、ニク監督の才能を示すものであろう。ブランシェットは『ミセス・アメリカ~時代に挑んだ女たち~』(20)等のシリーズ作品やポッドキャスト番組ほか、プロデュース業も精力的に活動中。また先に述べた第77回ヴェネツィア国際映画祭では、クロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』が金獅子賞、『スパイの妻』の黒沢清監督が銀獅子賞(監督賞)を受賞。『林檎とポラロイド』は、各国の才能に触れてきたブランシェットのお眼鏡にかなった作品ともいえるのだ。


 …と、作品を観る前から存分にワクワクさせてくれる本作なのだが、肝心の中身もこれらの“武勇伝”に負けることのない静かなる傑作。物語構成にしろ画面構成にしろ、抑制が効きつつも洗練され、かといって決して小さくまとまらないハイレベルな内容となっている。次の項目からは、クリストス・ニク監督の過去作品と合わせて、本作の詳細を語っていこう。





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