©2020 Boo Productions and Lava Films
『林檎とポラロイド』ランティモスやカウフマンの後継者。’84年生の新鋭監督が示した、異常な日常の作り方
1984年生まれの「インターネットとの距離感」
アナログでまとめられた、だが古さを感じさせない『林檎とポラロイド』の世界。ここで注目したいのは、ニク監督の年齢だ。
彼は1984年生まれの38歳。『ノマドランド』(20)のクロエ・ジャオ監督(1982年生まれ)や『ライトハウス』(19)のロバート・エガース監督に『RAW~少女のめざめ~』(16)のジュリア・デュクルノー監督(共に1983年生まれ)、『ミッドサマー』(19)のアリ・アスター監督(1986年生まれ)たちとほぼ同世代なのだ。日本でいえば松居大悟監督(1985年生まれ)・藤井道人監督(1986年生まれ)と近く、デジタルネイティブの一つ上の世代ではあるもののパソコンやスマートフォンに慣れ親しんでいる。つまり、それらを「知らない/遠い世代」ではないということだ。
実際にニク監督は、本作のインタビューで「昨今の記憶が、情報を記録し蓄積することを容易にしているテクノロジーにどんな影響を受けているかを探ってみたかった。技術の進歩は、私たちの脳を怠惰にし、より少ない出来事や感情しか思い出せなくしているのではないか?」「私たちは自分の人生を生きずに、他人がやっていることを真似してしまう。テクノロジーやソーシャルメディアのおかげで、物事を頭の中に入れておく必要がなくなり、自分の記憶をコンピュータに保存したり、ソーシャルメディアで公開するようになった」と語っている(プレス資料参照)。
『林檎とポラロイド』©2020 Boo Productions and Lava Films
乱暴な意見かもしれないが、インターネットがどんどん日常を侵食してくるさまを青春時代に体験してきた世代のニク監督だからこそ、それらとの絶妙な距離感を実感として持ち合わせており、本作のアナログで統一する方法論を実現できたのではないか(だが古臭くなく、美意識はあくまでいまの感覚)。
つまり本作は、テクノロジーに対するある種の忌避・危機感を多分に含んだ物語であり、ある種の対決でもある。意識したうえで、あえて存在をなくす。同時に、その際に生まれそうな疑問も「わかっている」ため、画面の構成要素をすべてアナログに統一する。そうした意味で、非常に「いまの映画」なのだ。