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『林檎とポラロイド』ランティモスやカウフマンの後継者。’84年生の新鋭監督が示した、異常な日常の作り方

©2020 Boo Productions and Lava Films

『林檎とポラロイド』ランティモスやカウフマンの後継者。’84年生の新鋭監督が示した、異常な日常の作り方

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短編『Km』に観る『林檎とポラロイド』との共通性



 先ほど『林檎とポラロイド』を「静謐な作品」と述べたが、全体の印象はそうであっても、冒頭にはちょっとしたチャレンジがなされている。本作は、何かを連続してぶつける音で始まり、スライドショー的に部屋の内部が映し出され、やがて主人公の男が壁に頭をぶつけている音だったとわかるという、それこそランティモス味あるシーンで幕を開けるのだ。


 観る者を一瞬ぎょっとさせる演出が効いている(しかもその理由は明かされず、謎を残す仕掛けが上手い)が、ここでニク監督が2012年に作り上げ、40以上の国際映画祭で上映されたという短編『Km』を観てみよう。


『Km』


 この作品も、冒頭は車中の男女を交互に映す静かなシーンで始まり、女性がやおら男性に殴りかかろうとするという静寂からの緊迫、静→動の演出が施されている。その後、男の耳から血が伝い、事態はさらに穏やかならざる方向へ……という物語だ。約10分の短編ではあるが、車の中という限定空間で動きもセリフも少ないなか、サスペンスとしてしっかりと成立させている。 “ツカミ”へのこだわりや、落ち着いたトーンを基軸にしてサプライズを乗せる作り方など、『林檎とポラロイド』に共通する点も多い。


 さらに言えば、劇中で男を演じているのは、『林檎とポラロイド』の主演俳優アリス・セルヴェタリス。ニク監督の作り出す世界の体現者でもあるのだろう。ちなみに、『Km』の撮影監督は『籠の中の乙女』『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(17)とヨルゴス・ランティモス監督の常連ティミオス・バカタキスだ。


 『Km』から『林檎とポラロイド』に至るまで、日常が異常に侵食されていくさまを淡々と描いてきたニク監督。ケイト・ブランシェット製作・キャリー・マリガン主演の次回作『Fingernails』は、IMDbを参照すると「長年連れ添ったパートナーとの関係に悩む女性が、謎の研究所で働き始める」物語になりそう。これまた、ニク監督らしい物語になる可能性が高い。


 静かなる日常の破壊者クリストス・ニク。またひとり、我々を陶酔させる映画作家が台頭してきた。


参考: 

https://www.imdb.com/title/tt13968674/fullcredits/?ref_=tt_cl_sm

https://variety.com/2020/tv/news/cate-blanchetts-dirty-films-sets-first-look-tv-deal-at-fx-1234703233/

https://www.imdb.com/title/tt13968674/?ref_=nm_flmg_dr_1



文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema



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作品情報を見る



『林檎とポラロイド』

3月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館 他全国順次ロードショー!

配給:ビターズ・エンド

©2020 Boo Productions and Lava Films

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