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『林檎とポラロイド』ランティモスやカウフマンの後継者。’84年生の新鋭監督が示した、異常な日常の作り方

©2020 Boo Productions and Lava Films

『林檎とポラロイド』ランティモスやカウフマンの後継者。’84年生の新鋭監督が示した、異常な日常の作り方

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大いに納得の「影響を受けた作品・監督たち」



 長編デビュー作にして、非常に洗練されたテクニックを見せつけたニク監督。本作は先に述べたように世界観の統一、いわば映像でルールを理解させる手腕が絶妙で、その土台があるがゆえに我々観客はノーストレスでこの奇妙で哀切な物語を楽しむことができる。日々コンテンツの濁流にさらされる中で、観客がどうしても添削を入れるように作品を観がちになってしまいつつあるノイジーな現代において、こうした気配りと気遣いが、本作の質をより高めている気がしてならない。


 トーンやテンションが終始落ち着いているのも本作の特色であり、よくよく考えるとなかなかに絶望的なパンデミック下ではあるのだが、誰も取り乱さない点が逆に“慣れ”を感じさせて空恐ろしい。これもまたニク監督のカラーといえ、その落ち着きが作品全体に“知性”を纏わせている(タイトルにもなった林檎の使い方も実に詩的だ)。


 この部分、さらにいうなれば前述の監督の発言にある「記憶と感情の相関関係」とも連動しているのだが、本作ではあるシーンだけに感情の高ぶりを集中させ、そこがグッと引き立つように設計されている。ドラマ曲線としても、画面に感情が宿る際に観客も心揺さぶられる=主人公と物語、観客が連動する仕掛けが効いていて、静謐な作品ながら感動がちゃんと担保されている。



『林檎とポラロイド』©2020 Boo Productions and Lava Films 


 90分という締まった構成も上手さを感じさせるが、伏線の張り方も秀逸。実は序盤のシーンのほとんどが、後々に効いてくる仕掛けになっているのだ。いわば本作は、アートハウス的作品でありつつ、エンターテインメントとしての純度も高い。しかし決して大仰にせず、あくまでさりげなく散らす点にセンスの高さを感じさせる。その辺りは観てのお楽しみということで詳細の説明を省くが、ケイト・ブランシェットが惚れ込むのも納得のクレバーなクリエイターといえる。


 となると気になるのは、クリストス・ニク監督という人物がどのようにして出来上がったか、だ。ヨルゴス・ランティモスとリチャード・リンクレイターの他に、彼が影響を受けたと語っている人物や作品には、どのようなものがあるのか?


 「私は、私たちが認識しているような、でも少しシュールな世界を作り上げている映画に惹かれます。スパイク・ジョーンズ監督の『her/世界でひとつの彼女』(13)やレオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』(12)。そしてもちろん、チャーリー・カウフマン監督の作品はどれでもそうです。彼には世界を別の角度から見る才能があります」(プレス資料)


 カウフマンといえば言わずもがな『マルコヴィッチの穴』(99)や『エターナル・サンシャイン』(04)の脚本家であり、監督としても『脳内ニューヨーク』(08)『もう終わりにしよう。』(20)などがある。なるほど、ニク監督は敬愛する監督たちのDNAを実に真っ当に受け継いだ人物といえるだろう。





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