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飄々とおかしくて哀しい『林檎とポラロイド』が浮き彫りにする、人の感情と記憶

©2020 Boo Productions and Lava Films

飄々とおかしくて哀しい『林檎とポラロイド』が浮き彫りにする、人の感情と記憶

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ケイト・ブランシェットを虜にしたギリシャ映画



 世の中には、小さな物語なれど輝きと温もりを放ち続ける映画がある。それらの作品は観終わって「はい、おしまい」ではなく、むしろその瞬間から何かが始まっていくのだろう。客席を後にした我々の心の視野も少しだけ広がり、街の景色や人々の表情さえもがいつもと違って見える。ギリシャから届いた『林檎とポラロイド』(20)はそんなかけがえのない一作だ。


 聞くところによると、ヴェネツィア映画祭でワールドプレミアを迎えた際には、審査員を務めていたケイト・ブランシェットがその評判を聞きつけてこっそり鑑賞したとか。そうやって観終わった彼女もやはり大切な何かを感じたらしい。すぐにこの映画を作った監督に会いたいと熱望し、対面を果たした二人はすっかり意気投合。結果、ブランシェットは本作をサポートすべくエグゼクティブ・プロデューサーとしての役割を買って出るまでになった。


 ただしこの映画は、序盤から観客の心を掌握したりするわけではなく、一人一人の心に語りかけるように観る者をゆっくりといざなう。何しろ”人を記憶喪失に陥らせる奇病”が蔓延する世界で起こる、静かで余白の多い物語なのだ。



『林檎とポラロイド』©2020 Boo Productions and Lava Films


 主人公がバスの中でふと目覚めると、彼はすっかり記憶を失っていた。病院には同じような症状に陥った大勢の患者が日々運び込まれ、医師は判で押したように「あなたは記憶喪失です」と診断結果を伝える。


 しかしずっと記憶を失ったままで生きていくわけにはいかないから、患者には新たな日常に適応していくための”新しい自分”プログラムが用意されている。毎日、カセットテープでミッションが伝えられ、それをやり遂げてポラロイド写真を撮る。こうして撮りためた経験が、その人を支えていくというわけだ。




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