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『17歳のカルテ』永遠を生きるウィノナ・ライダーの自画像 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『17歳のカルテ』永遠を生きるウィノナ・ライダーの自画像 ※注!ネタバレ含みます。

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西の魔女リサとの出会い



 ウィノナ・ライダーの情熱に心を打たれた監督のジェームズ・マンゴールドは、彼女の持ってきた脚本を書き直す作業にあたる。脚本の進むべき方向性については、彼女と相談しながら決めていったという。リライトにあたっては、ヴィクター・フレミングの手掛けた『オズの魔法使』(39)が参考にされた。『オズの魔法使』の主人公ドロシーは自分のアイデンティティに確信を持てず、心に不安を抱えている少女だった。「黄色いレンガの道」を行く不思議な出会いと自分探しの旅。しかしドロシーもまたスザンナと同じように、自分の「家」に帰ることを望むようになる。そしてアンジェリーナ・ジョリーがカリスマ的に演じたリサ役には、ドロシーを脅かす西の魔女がモデルにされた。


 スザンナを魅了していくリサ役には、多くの俳優が興味を持ったという。その中にはコートニー・ラブもいたとのこと。コートニー・ラブは、ジェームズ・マンゴールドの恩師でもあるミロス・フォアマンの『ラリー・フリント』(96)で好演を披露している。しかしオーディションを受けに来たアンジェリーナ・ジョリーの圧倒的な存在感がすべてを決めてしまう。オーディションの記録映像を見た製作陣は、リサを演じるのは彼女以外にはあり得ないと即決する。アンジェリーナ・ジョリーによる、その場のすべての支配者であるかのようなリサ役。その悲しいくらいに天真爛漫な身振り。彼女は自身の中にいるリサを発見する。そしてリサ役は彼女をアカデミー助演女優賞に導くことになる。



 『17歳のカルテ』(c)Photofest / Getty Images


 「私の人生の断片であり、人に手を差し伸べたい、生きていると感じたい、自由でありたいと思わせるような役だったのです。そしてそれは私自身のペルソナだったのです」(アンジェリーナ・ジョリー)*2


 西の魔女のように、暴力的にスザンナとの間合いを詰めていくリサ。スザンナはリサへの脅威を覚えると同時に、彼女の正直さに魅了されていく。スザンナはリサに憧れを投影させているのかもしれない。リサにはスザンナが表に出せない残酷なまでの正直さがある。看護師リーダーのヴァレリー(ウーピー・ゴールドバーグ)が患者たちを引き連れてアイスクリーム店に向かうシーン。ここでスザンナはかつての不倫相手だった男性の妻に遭遇してしまう。女性がスザンナに悪意を持って詰め寄るとき、リサはユーモラスな攻撃を仕掛ける。悪辣ではあるが仲間思いなリサ。患者仲間たちは一斉に犬の鳴きまねをして女性を追い払う。これは自分たちを差別的に見る人たちへの挑発行為でもある。彼女たちは皆のお望み通りの「狂人」を戯画的に演じている。


 リサの挑発的な言葉や振る舞いはスザンナの心の声を代弁していた。このシーンでは、リサたちの方がよっぽど「まとも」であることが証明されている。そしてアンジェリーナ・ジョリーはリサのことを、この映画で真に「まとも」な人物として解釈していた。





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