中断された少女
「レッスンの途中で中断された彼女の生は、十八歳という音楽の途中で中断されたわたしの人生のようだ。彼女の人生は奪われてカンバスに定着された。ある一瞬が停止し、それでほかのすべての時が静止した。どんな時を刻もうとしていたのか、また刻むはずだったのか。そこからどんな人生が取り戻せるというのか」(「思春期病棟の少女たち」)
「思春期病棟の少女たち」の原題「Girl, Interrupted(中断された少女)」は、フェルメールが描いた「中断された音楽の稽古」という絵画作品にインスパイアされたという。リサと病院を脱走したスザンナが美術館でこの絵画と向き合うシーンは、最終的な編集でカットされたが、とても魅力的な出来栄えに仕上がっている。未公開シーンはソフト化の際、特典映像として収録された。編集でカットされたシーンを見て気付かされるのは、本作では幻想的なシーンの多くがカットされているということだ。この判断が本作をより私たちの肌に近い感覚へと引き寄せている。
悪魔的でありながら仲間思いで正直なリサと同じように、スザンナもまた相反する二つの感情に引き裂かれている。ヴァネッサ・レッドグレイヴの演じる医師とスザンナの会話に出てくる「アンビバレント」という台詞。スザンナはアンビバレントという言葉の解釈を間違えて覚えている。スザンナの抱える問題の遠因があるとするならば、それは彼女がこの言葉の持つ感情を理解していないことと繋がっている。この言葉は、脚本の方向性を二つの内どちらにするか迷っていたジェームズ・マンゴールドが、ウィノナ・ライダーに相談したときに彼女が発したものだという。相反する方向性のどちらにも惹かれてしまうという「アンビバレント」。
何人と寝れば淫乱と定義されるのか?10人と寝たことのある女性は淫乱なのか?109人と寝たことのある男性は淫乱ではないのか?こういった揺さぶりが議論されることも含めて、このシーンには「正常とは何か?」という問いを投げかける本作の主題が剥き出しにされている。