ウィノナとアンジー
ジェームズ・マンゴールドは本作のウィノナ・ライダーを「サイレント映画の女優」という言葉で称賛している。瞳の動きだけで物事を明らかにすることができる俳優。ウィノナ・ライダーが感銘を受けたというジェームズ・マンゴールドの長編デビュー作『君に逢いたくて』(95)もまた、太っていることにコンプレックスを抱える主人公が、女性(リヴ・タイラー)への一途な思いを瞳で語りかける作品だ。そしてベリーショートのウィノナ・ライダーは、どこか『悲しみよこんにちは』(58)のジーン・セバーグを想起させる。そのジーン・セバーグに、精神病院を舞台にした戦慄の傑作『リリス』(64)という出演作があることは、本作に映画史的なイメージの深度を与えている。
『17歳のカルテ』において登場人物の視線の動きは精緻に設計されている。スザンナの観察者としての視線。リサの支配者としての視線。彼女たちの視線の動きは、物理的な位置関係だけでなく、感情的な距離感をも創出している。
『17歳のカルテ』(c)Photofest / Getty Images
キャスター付きの椅子で無邪気に廊下を駆け抜ける患者たち。施設での生活が巻物を広げるようにオーバーラップで編集されていく。時間経過を表すこのシーンは、撮影の合間に撮られたという。ジェームズ・マンゴールドはリハーサルよりも、まず俳優に撮影現場の空間を把握してもらうことに注意を払っているという。たとえば部屋のどこに輪ゴムやクリップがあるかを把握してもらうこと。そして、俳優に小道具や空間を活かしてもらうために、フレーミングを常にオープンにしておくことを心掛けているという。手袋型のぬいぐるみを小道具として渡されたアンジェリーナ・ジョリーは、支配者による全能感さえ感じる身振りでこの小道具を活かしている。アンジェリーナ・ジョリーのアイディアにジェームズ・マンゴールドは何度も驚かされたという。
「アンジェリーナ・ジョリーは車椅子に乗り、廊下を行ったり来たりして、この映画における自分の生き方を模索していました。俳優が衣装や小道具、そして自分のキャラクターのために空間をどのように使い、支配するのに慣れることは、とても大切なことだと思います」(ジェームズ・マンゴールド)*3
本作の撮影中、アンジェリーナ・ジョリーはウィノナ・ライダーとのコミュニケーションを出来る限り避けていたという。そこにはスザンナとリサの距離感を徹底させていく意図があったという。