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『ソー:ラブ&サンダー』人間ドラマの名手タイカ・ワイティティがコメディで挑む抵抗の狼煙

(c)Marvel Studios 2022

『ソー:ラブ&サンダー』人間ドラマの名手タイカ・ワイティティがコメディで挑む抵抗の狼煙

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激動する時代、コロナ禍の空気を捉える



 おそらくタイカが『ソー:ラブ&サンダー』の脚本を書き始めたのは、製作が発表された2019年の夏前後のこと。同年10月の時点で脚本の初稿が完成していたことは確かだが、2020年2月に共同脚本のジェニファー・ケイティン・ロビンソンが雇われたあと、新型コロナウイルス禍でハリウッドの動きが止まる中、タイカは脚本のリライトを続けている。クリス・ヘムズワースによれば、撮影開始の約3ヶ月前である同年10月中旬の時点でもタイカは執筆にあたっていたというのだ。


 「必然的に」と言っていいだろう、この映画にはコロナ禍の空気がしっかりと刻み込まれた。コロナ禍の世界ではあらゆる局面で分断が進み、各国で政治不信が広がり、人々はいつ収まるとも知れない感染症のために日常生活や生命の不安にさいなまれてきたが、2022年現在よりもその空気が色濃かった2020年に脚本が執筆され、撮影が行われただけに、タイカの怒りと願いはそのまま作品に現れている。



『ソー:ラブ&サンダー』(c)Marvel Studios 2022


 たとえば、なぜヴィランである神殺しのゴアは神々を殺さなければならないのか。そこには、もともとひとりの市民にすぎなかった彼の、人間を守ってくれるはずの“神”に対する怒りがある。一方のソーにはひとりの神としての理想と信念がある。また、ソーはひとりの市民として、神と人間との間に横たわるギャップを悟ることになるのだ。神々の間にさえ、確固たるヒエラルキーと格差が存在するということも。


 すなわち、神話やSF、ファンタジーとコメディのオブラートに包まれながら本作を貫くのは、堕落した権力や政治に対する怒りと、それらに希望を託しても守られない生活や生命があることへの哀しみだ。そして、非日常を生きる人々への優しい視線と、それでもこの時代に希望を持ちたいという情熱である。映画の前半、とある人物が口にする「こんな時こそ娯楽は必要」という言葉は、コロナ禍の先行きの見えない日々に映画を作っていたタイカらの思いを表したものだろう。


 かくしてタイカは、この世界に怒り、それでも人間を信じ、人間の善なる部分に希望を見出す物語を、スーパーヒーロー映画の中で描いた。これぞヒューマンドラマの名手たるタイカ・ワイティティの本作における真骨頂であり、『マイティ・ソー』シリーズは本作に至って、王族の葛藤の物語から、とうとう民草の物語となったのである。その時に「子ども」の存在に注目し、重大な局面を担わせるところも、『ボーイ』や『ハント・フォー・ザ・ワイルダーピープル』そして『ジョジョ・ラビット』などに通じるタイカらしさだ。


Sweet Child O’Mine MV


 ちなみに本作の特徴は、予告編に使用されている「Sweet Child O’Mine」をはじめ、ガンズ・アンド・ローゼズの楽曲が随所に登場すること。この映画がはらむロックンロールの精神は、劇中の選曲に象徴されているとも言っていいはずだ。





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