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『ソー:ラブ&サンダー』人間ドラマの名手タイカ・ワイティティがコメディで挑む抵抗の狼煙

(c)Marvel Studios 2022

『ソー:ラブ&サンダー』人間ドラマの名手タイカ・ワイティティがコメディで挑む抵抗の狼煙

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「抵抗の映画」としての『ソー:ラブ&サンダー』



 『ソー:ラブ&サンダー』はストレートすぎるほどのラブストーリーであり、ソーがこれまでの喪失に対峙する物語であり、そして権力への抵抗を主題のひとつとする作品だ。この真っ直ぐなありようをそのまま描き出すために、タイカにはそれと釣り合うだけのユーモアが必要だったのだろう。特に前半はユーモアにあふれすぎるほどあふれており、映画の核をわざわざ見えづらくしているようにさえ感じられるほど。逆に言えば、ユーモアを食い破って物語に重みをもたらすクリスチャン・ベールの貢献は非常に大きいのである。


 もっとも、映画の内容とスタイルは一致しているべきだという考え方に立つなら、タイカのやり方は首尾一貫している。先に触れたように、ウェルメイドな人間ドラマを作ろうと思えば作ることができるタイカが、インディペンデント映画や小規模作品でそれを実現するかたわら、製作費2億ドルを超えるMCU映画でわざわざその逆を行くこともまた、彼にとっての“抵抗”だと解釈できるからだ。



『ソー:ラブ&サンダー』(c)Marvel Studios 2022


 ウェルメイドに織り上げられるストーリーテリングを、ことごとくユーモアによって脱線していくこと。自ら執筆した脚本の通りに撮影を行わず、役者の即興演技を重んじ、時にはプロットごと変更してしまうこと。それと引き換えに、撮影した大量の映像をやむをえず編集段階でカットすること。本作の場合、少なくともジェフ・ゴールドブラム(グランドマスター役)、ピーター・ディンクレイジ(エイトリ役)、レナ・ヘディ(役柄不明)の3人が登場シーンを全カットされているほか、登場予定だった“とある惑星”のシーンはまるごと削除されているというのである。


 ハリウッドのトップに君臨するディズニーの傘下でこうした野心的な映画製作に挑むスタイルと、公開直前にInstagramで「この映画を観ないということは、楽しくてアートなインディペンデント映画が嫌いだということですね」とうそぶくパフォーマンスは、まさにハリウッドの映画業界やブロックバスター映画に対するタイカなりの抵抗だろう。だとすれば、ファンや批評家から「映画としてのバランスを欠いている」といった批判が寄せられることも、少なくともタイカ自身はあらかじめ織り込み済みだったのではないか。


 直球のヒューマンドラマという意味でタイカ・ワイティティの本領発揮となった『ソー:ラブ&サンダー』は、物語の内容としても、また製作のあり方としても政治的な一作である。MCUという巨大化したユニバースの中に、これほど個人的で独創的な作品を生み出したタイカの力量と、それを許容したマーベル・スタジオとの信頼関係は、今後の両者の展開に新たな期待を感じさせもするだろう。



[参考文献]

・『ソー:ラブ&サンダー』プレス資料

‘Thor’ Sequel Writing Staff Recruits ‘Someone Great’s’ Jennifer Kaytin Robinson (EXCLUSIVE)

Thor: Love and Thunder Star Chris Hemsworth Confirms Filming Begins in January

Thor: Love and Thunder Star Confirms Two Major Marvel Characters Were Cut

Lena Headey Sued for $1.5 Million Over Cut ‘Thor: Love and Thunder’ Role and More



文:稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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作品情報を見る



『ソー:ラブ&サンダー』

7月8日(金)全国公開

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

(c)Marvel Studios 2022

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