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『すずめの戸締まり』新海誠が描く災禍との対峙、心の復興

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

『すずめの戸締まり』新海誠が描く災禍との対峙、心の復興

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新海作品の特徴である「時間」が進化した「記憶」の描写



 また、「震災を描く」という『すずめの戸締まり』のテーマは、新海作品のキーワードの一つでもある「時間」の表現にも新たなテイストをもたらした。新海作品には『ほしのこえ』(02)『雲のむこう、約束の場所』(04)『秒速5センチメートル』(07)など、時間の隔たり=距離の隔たりが切なさを呼び起こす物語が多く、『君の名は。』ではトリックにも寄与していたが、『すずめの戸締まり』ではタイムリミットものとしての要素がより強まった。「ミミズが地面に倒れたら地震が発生する」という設定によって、「それまでに現着して戸締まりをしなければならない」必要性が生じ、観る者にハラハラドキドキの緊迫感を与えている。


 そして、「常世(とこよ)」という概念。常世とは、時が止まった場所であり、死者の世界とも呼ばれている。この場所がどのような役割を果たしていくかは物語の核心に触れるため本稿では省くものの、新海監督×時間の新たな表現方法として、今後も語られていくことであろう。



『すずめの戸締まり』(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会


 また、「場所を悼む物語」というテーマも、「時間」と密接に関係している。閉じ師は後戸を閉じる際、「土地の声を聴く」ことで鍵穴を出現させる。この「土地の声」は、その地にかつていた人々の思い出や記憶のこと。廃校や廃遊園地、廃村に刻まれた人々の声を力に変えるのだ。先述した通り、後戸は人の心の消えたさみしい場所に出現する。つまり、人が寄り付かなくなって経年劣化したことで生まれるというわけ。そこに在りし日の人の心を復活させることで封印する――時間の逆再生がカギとなっていくのだ(これは震災に対する「復興」にもつながっていく)。


 時間が経過することで何が起こるのか。それは「忘れる」ということ。痛みを忘れることは前進するために必要だが、大切な思い出が薄まることは哀しみを呼び起こす。土地の声を聴き全国を回るすずめが、子どもの頃に使っていた椅子にまつわる記憶を振り返る物語展開には、痛みと幸福のどちらもつながっており、抱きしめることで本当の意味の救済が訪れる――。『すずめの戸締まり』には、そのようなメッセージも含まれているように感じる。





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