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『すずめの戸締まり』新海誠が描く災禍との対峙、心の復興

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

『すずめの戸締まり』新海誠が描く災禍との対峙、心の復興

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リアリティの追求が生んだ、かつてないエンタメ描写



 ここまで述べたように、『すずめの戸締まり』は震災をテーマにし、コロナ禍とも呼応する映画なのだが、そうした心痛な内容をはらんでいるがゆえに、娯楽大作としての形を保つべく新海監督史上最も虚構性&エンタメ性が高いといっても過言ではないつくりになっている点も興味深い。


 しゃべる猫のダイジンと椅子に変えられた草太のバトルシーンはアニメならではのシーンであり、東京でミミズに飛び乗ったすずめが宙に舞い上がるシーンもそう。後半の見せ場となるシーンは、完全に王道ファンタジーのそれである。現実と重なる部分が多いぶん、エンターテインメントとしての意識が強められており、新海監督が次なるステージに向かっていることを感じさせる。新海監督はコロナ禍で一時期は映画館の営業も危ぶまれたなかでの制作を振り返り、「観客が映画館に連れてきてくれた」と感謝を述べていたが、描くべきテーマを追求しつつ、観る者を画的にも楽しませようとするサービス精神に満ちている。



『すずめの戸締まり』(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会


 プレスに寄せられた監督インタビューの中で、新海監督はこう語っている。「アニメーションの快感を総動員して鈴芽の旅の高揚感を描き、物語の果たすべき共感や励ましの機能をプロットの根底に打ち付け、それらがきちんと駆動することを願いながらエンターテインメント映画として一つの形にする。それは、『君の名は。』のときでも、『天気の子』のときでもない、今の自分だからこそ出来たことのような気がしています」と。つまり、本作は震災というリアルな痛みと向き合いながら、エンタメ大作としての在り方を模索した映画でもあるということ。


 大作デビューを果たした『君の名は。』、反骨と実験精神に満ちた『天気の子』を経て、『すずめの戸締まり』で作家性と娯楽性の黄金比率に到達した新海誠。作品ごとに進化する稀代の作り手は、3年後、どんな世界を現出させるのだろうか。



文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema



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作品情報を見る



『すずめの戸締まり』

2022年11月11日(金)全国東宝系にてロードショー

配給:東宝

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

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