エネルギー問題に対するまなざし
最後に、「動力」について触れておこう。仮面ライダーは風力で変身し、戦うサステナブルなヒーローであり、エネルギー問題に対する石ノ森の高い関心が盛り込まれている。連載当時は公害が社会問題として深刻化していた時期でもあり、漫画には公害闘争のシーンも登場。『ゴジラ』で水爆が題材となり『ウルトラマン』シリーズで差別問題が描かれたように、社会的なテーマを内包させるのが特撮の特徴だが、「仮面ライダー」には、環境破壊が進む時代の不安が映し出されていると同時に「次世代エネルギー」という希望も描かれている。
石ノ森はあとがきで「ショッカーは技術文明の象徴」としたうえで「自然(バッタによる象徴)が直接人類(文明の象徴)に反旗を翻すのではなく『仮面ライダー』(バッタと人間のハーフ)、即ち自然と人間が協力して“悪”に立ち向かう……。自然と上手に共生することが人間の叡智。『仮面ライダー』こそが“真の文明”のシンボルなのだ」と綴っており、“いま”をリアルタイムに物語に反映させたうえで、その先にある“進むべき未来”をも指し示している。
そうした心意気は、『シン・仮面ライダー』でどう表現されたのか。本作では「プラーナ」というエネルギーが登場。「自然環境を破壊せず、人類が生き延びていく理想のエネルギー」と説明されるが、そううまく事は運ばない。やがて「エネルギーの奪い合い」という現代的な問題に発展していく(これは「真の安らぎはこの世になく」でも同様)。
ちなみに庵野監督の作品では「エネルギー」は重要なトピックであり、『シン・ゴジラ』では原子力、『シン・ウルトラマン』では地球人がエネルギー資源として“外星人”に狙われるという描写が見られる。そして『シン・仮面ライダー』のプラーナ。この3つには共通する特徴があり、「リスクが高い」ということ。既存のエネルギーではもう賄えないところまで来ているという現状の危機感、しかし無暗にテクノロジーに頼った結果危機が及ぶという警鐘――現代社会を鋭く見つめた特撮のマインドも、『シン・仮面ライダー』からは如実に感じられる。
最後になるが、『シン・仮面ライダー』のティザーポスター内のキーワードとして掲げられたのは「孤高」「信頼」「継承」の3つ。そして、本ポスターのキャッチコピーは「変わるモノ。変わらないモノ。そして、変えたくないモノ。」。ここまで述べてきた内容と本編を踏まえてもう一度これらの言葉に立ち返ると、新たな視野が開けてくるはずだ。
参考資料:Pen「シン・仮面ライダー徹底研究」
文:SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema」
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©石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会