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『犬ヶ島』ウェス・アンダーソンの作劇と日本的物語の融合

©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation

『犬ヶ島』ウェス・アンダーソンの作劇と日本的物語の融合

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『七人の侍』と「桃太郎」の物語類型



 そんなウェスの作劇術を踏まえて、早速『犬ヶ島』のストーリーを検討してみよう。黒澤明の諸作品へのオマージュを明言している監督だが、とりわけ分かりやすいのは、劇中曲「勘兵衛と勝四郎~菊千代のマンボ」が引用された『七人の侍』だ。物語の面でも、小林アタリ少年とアルファ・ドッグ5匹、それに後半で合流する1匹(1人と6匹で「7」)が、虐げられた犬たちのために悪の勢力と戦う構図は、『 七人の侍』にピタリと重なる。


 さらに言えば、アタリ少年に犬たちが随行する旅の前半で、誇り高き野良犬のチーフだけが距離を置きついていくくだりは、『七人の侍』で三船敏郎が演じた菊千代が、当初仲間に入れてもらえず一行の後から勝手についていった姿を想起させる。仲間意識が強くアタリ少年にすぐさま従った4匹と、安易に群れたり従ったりしないチーフの対照性も、ウェスらしいキャラクター配置と言える。



『犬ヶ島』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation


 『犬ヶ島』の原案には、ウェスとロマン・コッポラ、ジェイソン・シュワルツマンに加え、日本人アーティストの野村訓市も参加している(野村は小林市長の声も担当)。『犬ヶ島』に「桃太郎」の要素が取り入れられたのは、おそらく野村の貢献ではないか。まず邦題が「鬼ヶ島」を連想させるし、少年が忠実な動物たちを引き連れて旅をし、敵地に乗り込む点も同じ。日本人なら誰もが知る物語の類型を借用しているのも、親しみを覚えるポイントだ。



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