優れた群像劇としての側面
リアリティあふれる再現性といえば、「アポロ13号の船内」のみならず、「ヒューストンの管制室」や「妻や子供達が待つジム・ラヴェル邸」も忘れてはいけない。本作はこれら3つの閉鎖空間を行きつ戻りつしながらストーリー構築される密室劇でもあるわけだが、それぞれの場所で目まぐるしく展開するドラマ以上に、離れた場所にあっても3つの現場が、そして人々が一心同体となって運命を乗り越えようとしていく様が秀逸だ。
面白いことにこの年のアカデミー賞では、トム・ハンクスの主演男優賞ノミネートこそ叶わなかったものの、代わりに助演部門で主席管制官役のエド・ハリスと、ジム・ラヴェルの帰還を待つ妻役のキャスリーン・クインランがノミネート入りを果たした。いずれも「管制室」と「ラヴェル邸」という重要な舞台を司る中心人物であり、こういったノミネート結果は、『アポロ13』がたった一人の主人公にスポットを当てるのではなく、むしろ各々の個性が際立った群像劇としていかに優れたものであったかを深く納得させてくれる。
『アポロ13』(c)Photofest / Getty Images
ちなみに、エド・ハリスといえば、かつて『ライト・スタッフ』(83)のジョン・グレン役で宇宙へと飛び立ち、その後、本作では宇宙飛行士たちの帰還を全力でサポートし、さらに18年後に公開された『ゼロ・グラビティ』(13)でも主人公を導く管制官役として声のみの出演を果たしている。
かくも彼の俳優歴に「地球への帰還請負人」ともいうべき異色の肩書をもたらした面でも、『アポロ13』は実に忘れ難い不朽の名作なのである。
参考資料:
https://www.thewrap.com/ron-howard-documentaries-audiences-apollo-13-bull/
『アポロ13』DVD収録特典映像
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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