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『コングレス未来学会議』AIが生み出すデジタル俳優、その功罪(前編)

(c)Photofest / Getty Images

『コングレス未来学会議』AIが生み出すデジタル俳優、その功罪(前編)

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デジタル俳優の種類と問題点



 このように『コングレス未来学会議』は、映画俳優組合のストライキで議論された“俳優のデジタルクローン化”の問題を、早くから浮かび上がらせていた。この不気味なまでの一致は、海外メディアでも指摘されている。(https://www.slashfilm.com/1279512/a-i-filmmaking-is-a-terrible-idea/


 しかし、劇中でロビンが最も抵抗しているのは、本人が意図しないジャンル(SF映画を極端に嫌がっている)(*5)にデジタルデータが用いられてしまうことだ。彼女は、自分と子供たちを養うに足りる報酬を20年間も得ているため、金銭的なことは問題視されていない。さらに専門の弁護士も付いて、データはきちんと管理されている。


 だが、実際のストで問題視された、末端の俳優たちの場合とは事情が異なる。彼らのほとんどは、3Dスキャン費用として安い金額が1度だけ支払われ、再利用されても二次使用料は貰えない。さらに将来、本人たちがスターになったとしても、過去に買い取られたデータの所有権はスタジオにあり、使われ放題になる危険性もあった。(ストの合意後は、「雇用者がデジタルデータを再利用する際、新たな同意書、報酬、そして印税を約束しなくてはならない。さらに、背景として登場したエキストラや定額で雇われた俳優のデジタルデータ使用に関しても、稼働した日数や印税が加算されて支払われなくてはならない」と決められた)。



『コングレス未来学会議』(c)Photofest / Getty Images


 そこで一旦、『コングレス未来学会議』から離れてしまうが、現実世界におけるデジタル俳優にはどんなケースがあるかを、整理してみよう。


①CGアーティストがモデリングし、手付けでアニメート

 最も古くからある方法で、3Dスキャンやモーション・キャプチャーは基本的に行わない。現在でも、フルCGアニメなどで採用されている。『未来世界』(76)のピーター・フォンダや、『ルッカー』(81)のスーザン・デイなどまで遡れる。『ルッカー』には、架空の3Dスキャナーが登場するが、実際は俳優の顔に直接メッシュを書き込んで二面写真を撮影し、人が座標を入力していた。しかしこれらは、基本的にモニター内の映像という設定だった。完全に俳優の代役として登場した劇映画は『ジュラシック・パーク』(93)で、トイレに逃げ込んだドナルド(マーティン・フェレロ)がT-Rexに食べられる場面において、本物の俳優が途中からCGにすり代わっている。デジタルダブル(あるいはデジタルレプリカ)と呼ばれる手法の最初だ。


②CGアーティストがモデリングし、モーション・キャプチャーを使用

 『タイタニック』(97)の船上の乗客の描写において、先駆的試みがなされた。しかしまだ、キャプチャーデータをエディットするソフトが十分ではなく、そのままでは使用できなかった。そこでキャプチャーデータは、あくまで参考程度に留め、アニメーターが手付けする“ロトキャップ”と呼ばれた方法で処理されていた。より本格的にこの方法が用いられたのが、映画版の『ファイナルファンタジー』(01)だった。そしてここから、数多くの映画に使用される技術として定着していった。理想化された美形キャラなどをCGアーティストが作れることから、ゲームやアニメのキャラクターなどにも使われている。


 またこの方法は、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)のピーター・カッシング(*6)のように、故人となった俳優を再現するケースや、『ブレードランナー2049』(17)のショーン・ヤング(*7)で試みられた、ディエイジング(若返り)処理にも用いられている。この場合、キャプチャーするのは代役の表情のみで、胴体は再現する俳優に体格の似た人物に演じさせて普通に実写撮影し、CGで描かれた頭部とコンポジットしていることが多い。


③人物を3Dスキャンし、モーション・キャプチャーも使用

 アクション映画や、スタントシーンなどで広く使われている手法。頭部は俳優の3Dスキャンデータを用い、モーション・キャプチャーはアクション専門のアクターが行うことが多い。『マトリックス リローデッド』(03)や、『マトリックス レボリューションズ』(03)の辺りから本格的に用いられるようになった。スキャンとキャプチャーの両方とも、俳優本人が行うケースもある。


 だがスキャンされるのは、有名スターだけとは限らない。モブの人物が車にはねられたり、モンスターに引きちぎられたりといった描写で、途中からデジタルダブルに置き換わるという例は少なくない。この場合、モブの俳優はスキャンデータだけを提供してくれれば、後は用済みになってしまうため、この問題が俳優組合のストに大きく影響した。


④人物を3Dスキャンし、動きはAIによる自動生成

 元々は、『ロード・オブ・ザ・リング』(01)のために、当時WETAデジタル(現Wētā FX)に所属していたステファン・リジェラウスがMassiveを開発。その後独立してソフトの市販を行い、広く普及した手法。同様のツールには、 MPCが『トロイ』(04)や『ワールド・ウォーZ』(13)用に開発したALICEや、仏Golaem社のGolaem Crowd、香港Basefount Software社のMiarmyなどがある。


 個々のキャラクター(エージェントとも呼ばれる)が、動物やクリーチャー、ロボットなどであれば大丈夫なのだが、リアルな人間だった場合に問題が生じる。スタジオ側は、大量に安価で人物のデータを集める必要がある。モブシーンに安く(時にはボランティアで)、大量のエキストラを集めることは昔からあったことだが、AIによる群衆シミュレーターが登場したことで演技は不要になり、外観データのみが求められることになった。


⑤AIがビッグデータを基にして顔を自動生成

 これがディープフェイク動画などとして問題視されている技術だ。元々、USC ICTの研究に魅了されたワシントン大学の学生スパソーン・スワジャナコーン(現在はタイの研究機関VISTECの講師)が、3DスキャナーやLight Stageなどを使用せず、ネット上の画像だけから、顔の高精細な3D映像を再構成する研究を行っていた。さらに彼は、再構成した人物の3D映像を別の人物に移植したり、音声データをAIに学習させて、その言葉をリアルにしゃべらせる研究などを行った。(https://www.ted.com/talks/supasorn_suwajanakorn_fake_videos_of_real_people_and_how_to_spot_them?subtitle=ja)スワジャナコーンは、純粋な学術目的だけで行っていたのだが、すぐに悪用する人々が現れてしまう。そしてこれがディープフェイクと呼ばれるようになり、ポルノ動画や選挙妨害などに悪用され、国際的に問題化していく。


 実はこの技術は、俳優だけでなく、CGやVFXスタッフの仕事も奪ってしまう可能性がある。『ローグ・ワン』のILMによる不出来なCGレイア姫を、Shamookと名乗るYouTuberがディープフェイクでリメイクしている。これはDeepFaceLabというツールを用い、800ドルのPCを24時間稼働させて作成した映像だった。結果として、大手のVFXプロダクションよりも、アマチュアの作るディープフェイク映像の方が、リアリティでもコスト面でも勝ってしまったのだ。


『ローグ・ワン』ディープフェイク


 続けてShamookは、『ローグ・ワン』のモフ・ターキンや、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(18)のハン・ソロ、『マンダロリアン:シーズン2』(20)のルーク・スカイウォーカーなどの、ディープフェイクによる高精度なリメイク映像を公開している。これは、ルーカスフィルムに無許可で行われたため問題になると思われたが、逆にILMが興味を持ち、Shamookをスカウトしてしまうという結果になった(https://www.indiewire.com/2021/07/lucasfilm-hires-deepfake-youtuber-mandalorian-skywalker-vfx-1234653720/)。このことは、顔面の精密なモデリングや肌のレンダリングなど、高度な3DCG技術が不要になる可能性も示しているのだ。(*8)


*5 これは映画後半に登場する『エージェントR:ストリートファイター』を強調させるためだが、ロビンは同時にホロコーストをテーマとした作品もNGとしている。しかしフォルマン監督は、次回作として『アンネ・フランクと旅する日記』(21)というアニメーション映画を監督している。


*6 1994年に亡くなったピーター・カッシングをモフ・ターキン役で出演させる必要があったため、スチュアート・フリーボーンが『トップ・シークレット』(84)用に模ったライフマスクから、ILMがCGモデルを作成し、ガイ・ヘンリーの身体に合成している。この『ローグ・ワン』には、19歳のキャリー・フィッシャーもレイア姫役で登場するが、これはイングヴィルド・デイラの顔を、ILMがCG(あまり出来は良くない)に置き換えたものだった。若きフィッシャーは『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(19)にも登場するが、こちらは彼女の娘であるビリー・ラードが代役を努め、顔をCGレイア姫に挿げ替えていた。


*7 DNEG(Double Negative)がショーン・ヤングの現在の骨格データから1982年当時の顔をCGで再現し、代役を務めたローレン・ペータの胴体に合成している。


*8 もちろん人物だけでなく、動物、乗り物、建造物、都市、自然景観などAIに学習させれば、わざわざCGで作る必要がなくなる。実際すでに、都市空間などの3DアセットをAIに生成させるサービスの「Atlas」が、法人向けに提供されている。




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