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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』調査報道映画指折りの傑作が描く、#MeTooのトリガー

(c)Photofest / Getty Images

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』調査報道映画指折りの傑作が描く、#MeTooのトリガー

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名もなき被害者たちの声を拾った2人の女性記者



 ワインスタインの蛮行と組織的隠蔽のシステムが明るみに出せたのは、新聞記者やジャーナリストの果敢な努力の成果であることはもちろんだが、一番重要だったのは、これまでに声を上げても無視されてきた、また、声を上げる手段を奪われて沈黙を余儀なくされていた被害者たちに話をしてもらうことだった。


 被害者は膨大な数にのぼり、誰もが知っているハリウッドセレブもいれば、ワインスタインの映画会社で働いていた無名の女性スタッフも多かった。ワインスタインは告発されると巨額の示談金でもみ消しを図り、被害者を守秘契約で縛って公に発言できないようにしていた。


 身の危険を感じていたり、報復を恐れていたり、トラウマに苦しみながら人生を立て直そうと苦闘している女性たちと、いかに信頼関係を築いて、辛い体験について語ってもらうのか。ワインスタインを引きずり下ろすには、カンター、トゥーイー、ローナン・ファローらの気の遠くなるような地道なプロセスの積み重ねがあった。



『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(c)Photofest / Getty Images


 この報道の功績を讃えられ、カンターとトゥーイー、そしてローナン・ファローは2018年4月にピューリッツァー賞を受賞する。その報道の過程を本にしたためたのが、カンターとトゥーイーの「SHE SAID」と、ファローの「キャッチ・アンド・キル」(文藝春秋刊)である。


 誤解されがちだが、「SHE SAID」と「キャッチ・アンド・キル」が#MeToo運動の火付け役になったわけではない。この2冊の書籍が出版されたのは2019年。#MeToo運動に火をつけたのは2017年のニューヨーク・タイムズとニューヨーカー誌の報道であり、両書は報道の最前線にいた3人が後から振り返って執筆した回想録なのだ。


 カンターとトゥーイーはニューヨーク・タイムズ紙で働く同僚だが、ローナン・ファローはスクープを競うライバル的存在で、協力してワインスタインの件を追っていたわけではなかった。ファローは当時4大テレビネットワークのひとつNBCで働いており、同局のニュース番組で報道するつもりで調査を進めていた。しかし社内でもみ消し工作に遭い、かき集めたネタをニューヨーカー誌に持ち込んだ。


 つまり、たまたま両者が同時進行的に調査報道を進めていて、ギリギリのタイミングでニューヨーク・タイムズが先にスクープ記事を出した。タイムズ紙とニューヨーカー誌は続報を出し続け、ほかのメディアも追随したことで、ワインスタインの犯罪行為の全容が明らかにされていったのである。





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