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『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』調査報道映画指折りの傑作が描く、#MeTooのトリガー

(c)Photofest / Getty Images

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』調査報道映画指折りの傑作が描く、#MeTooのトリガー

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ワインスタイン事件の顛末を描いた2冊のベストセラー



 ハリウッドの暗部を白日のもとに晒した一連の騒動を、ハリウッドが注目して映画化する流れはいささか皮肉にも感じられるが、業界として自己反省や自浄作用が機能しているとも言える。カンター&トゥーイーの「SHE SAID」の映画化権は、まだ出版される前にアンナプルナ・ピクチャーズとブラッド・ピットが設立者に名を連ねるプランBが共同で獲得した。


 筆者が映画化のニュースで驚いたのは、ワインスタイン事件が映画になるならローナン・ファローの「キャッチ・アンド・キル」の方だろうと思い込んでいたから。同書はファローの一人称で書かれており、ファローは事件を取材したせいでNBCの職を失いそうになり、義務感と保身の間で葛藤し、やがて闘い抜く決意をする。ワインスタイン側に監視されて命の危険を感じるくだりはスパイ小説さながらだ。「キャッチ・アンド・キル」は最初から映画化を想定しているのではと思ってしまうくらい、エモーショナルでエキサイティングな物語に仕上がっているのだ。



『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(c)Photofest / Getty Images


 一方「SHE SAID」では客観的に取材の過程が綴られていて、実際に調査報道を進めたカンターとトゥーイーは自分たちの露出を可能な限り抑えようとしている。主体はあくまでも声を上げた女性たちであり、勇猛果敢な記者たちの物語であることよりも、ワインスタイン報道に関する第三者的な報告書であろうとしているように見える。また、事件の余波を一歩下がったところから分析する試みでもあり、その姿勢はエピローグ的な「最終章」にもっともよく表れている。


 加熱したワインスタイン報道も落ち着いてきた2019年1月、カンターとトゥーイーは、取材の中で知り合い記事に登場した12人の女性たちに、報道の余波について語り合ってもらっている。12人はアメリカ、イギリス、ドイツの各地からロサンゼルスに集まり、参加者のひとりであるグウィネス・パルトロウが自宅を会場として提供した。


 自分たちの報道は確かに世の中を動かしたが、勇気を出して口を開いた被害者たちの人生にどんな影響を与え、どんな意味があったのか? 最終章でカンターとトゥーイーは、ジャーナリズムの功罪を、当事者である12人の女性の実体験から見つめようとしているのである。





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