2024.05.23
現在の世界と心境の変化
理不尽な理由や、人々の不寛容から、社会では多くの被害が生まれている。それを無かったことにしようとするのではなく、痛みとともに、そんな悲劇を引き起こした社会の一部として責任を受け入れ、いまの問題、新たな問題にも対処する……。それこそが、より誠実な事態との向き合い方ではないのか。もちろん、監督の黒川智之や、脚本の吉田玲子らとの協議を経てのことだとは思われるが、少なくとも、製作に参加している原作者として、ストーリーやテーマについて重要な立場にいることが想像される浅野いにおの“気分”は、いまそこにあるのではなかと考えられるかもしれない
興味深いのは、おそらくはそんな原作者の心境の変化が、このアニメーション作品に投影されただろうという点だ。このような大幅な改変は、いまのアニメーション業界の製作事情からすれば、なかなかチャレンジできない部分領域での仕事だといえる。しかし、原作者が製作に深くかかわることで、むしろそこに変化を加えやすくなる場合もあるのであるったのだとしたら、それはかなり興味深いことだといえないだろうか。
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee
近年、漫画原作を持つアニメーション作品は、原作の展開を大きく改変することを避けるようになってきている。しかし、原作漫画の展開がいつでも不可侵のものであり、ストーリーを忠実に守ることだけが、必ずしも原作者を尊重する行為になるかといえば、そうとばかりはいえないだろう。なぜなら、アニメ作品が製作されている時点で、原作者の考えが変化したり、成長を迎えている可能性もあるからである。
そんな原作者のそういった意味において、現在の“気分”にフレキシブルに対応したであろう本作『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』は、原作漫画を持つアニメーション作品のなかで、アニメーションの製作者たちと原作者の意志を尊重したことで内容が改変されることになったという、とりわけ興味深い経緯を辿った作品として記憶されていくことになるだろうのかもしれない。
文:小野寺系
映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。
Twitter:@kmovie
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『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 後章』
5/24(金)全国ロードショー
配給:ギャガ
©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee