
© 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』マーベル屈指の家族劇、とことん「芝居」で魅せるMCUの新時代
2025.07.28
巨大なもの、小さなもの
MCUの創始以来、地球と宇宙を自力で行き来しながら戦えるスーパーヒーローは決して多くない。ファンタスティック4はそんなヒーローの数少ない一組だが、同時にとことん等身大の人物だ。頼みの綱はあくまでも科学であり、個々のパワーがずば抜けて強力なわけではない。
そんな彼らの前に姿を現すのが、銀河の星々と同じく「宇宙の本質的な力」と呼ばれる超巨大なギャラクタスだ。ハリウッド版『ゴジラ』のTVシリーズ「モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ」(23)を手がけたマット・シャックマン監督は、この“巨大怪獣”の都市破壊でも演出の才を発揮。大映特撮映画『大魔神』(66)を思い出させるビジュアルと工夫の効いた特殊効果で、その恐ろしさを大スクリーンに叩きつける。
ファンタスティック4が普通に戦ったところで、ギャラクタスには手も足も出ない。では、いかにして4人はギャラクタスを倒そうとするのか。ひたすら駆け回り、飛び回り、転げ回り、協力しながらバタバタと抵抗するのである。そのとき、スーパースターであるファンタスティック4がちっぽけな“家族”にすぎないことと、それゆえの尊さがくっきりと見えてくる。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』© 2025 20th Century Studios / © and ™ 2025 MARVEL.
大スケールのスペクタクルのさなか、緻密に築き上げられた関係性の魅力があふれんばかりのエモーションとなって蘇る。これこそ『アベンジャーズ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズや、最近だと『サンダーボルツ*』にも通じる、“MCUチーム映画”の快感。そして、本作特有の“家族劇”としての情緒的な味わいである。
画面に収まりきらないほど巨大なギャラクタスと、もはやアントマン級に小さくも見えるファンタスティック4の対比は、新たに提示されるMCUの壮大な世界観と、実際にはミニマムで個人的なストーリーであるこの物語の本質を的確に示してもいる。シャックマン監督は「ワンダヴィジョン」(21)で広い世界と精神世界の箱庭を対比させつつ描いたが、世界観と物語の核心を複数のレンズでとらえるのがきわめて巧みだ。
2時間未満の上映時間で、MCUの新しい世界とスーパーヒーローの物語を紡ぎ出し、今後につながる伏線をもさりげなく散りばめた本作は、まぎれもなくユニバースの新時代を飾る一作だ。その欲張りな性質ゆえに、スピーディーに物語を展開したい欲望と、登場人物を丹念に描きたい欲望のあいだで脚本と編集がやや引き裂かれている感もあるが、あえて優しい目で見るならば、これはMCUの黎明期に通じる“クセ”と言えるかもしれない。
けれどもそんな中で作品に根を張るのが、いずれも卓越した俳優陣の演技だ。ファーストシーンからラストシーンに至るまで、観客に猛烈にアピールするのは芝居・芝居・芝居である。
ところで彼らをオーディションなしで抜擢したシャックマン監督は、実は演劇作品の演出家からキャリアをスタートさせた人物。意外にもこの大作映画で、隠された作家性が思いきり顔を出したように思えてならない。
文:稲垣貴俊
ライター/編集者。主に海外作品を中心に、映画評論・コラム・インタビューなどを幅広く執筆するほか、ウェブメディアの編集者としても活動。映画パンフレット・雑誌・書籍・ウェブ媒体などに寄稿多数。国内舞台作品のリサーチやコンサルティングも務める。
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『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』
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配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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