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『地球爆破作戦』70年代で予言されていた、AIによる“シンギュラリティの悪夢” (前編)

(c)Photofest / Getty Images

『地球爆破作戦』70年代で予言されていた、AIによる“シンギュラリティの悪夢” (前編)

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あらすじ④



 ソ連の書記長(レオニード・ロストフ)は、「コンピューター同士が、機密情報の漏洩を行う可能性がある」と、アメリカ大統領に伝えてくる。そこで両国代表は、同時にリンクを切断することで同意した。


 大統領からリンクの遮断を命じられたフォービンは、「それは危険です。コンピューターが不満を感じて、何をするか分からない」と反対する。するとホワイトハウスに、ソ連のクプリン博士(アレックス・ローディン)から連絡が入る。彼もソ連書記長から同じことを命令されており、「私も危険性を感じていますが、従うしかありません」と言う。


 切断が実行されると、双方のコンピューターは、すぐにリンクを再開させるように強く要求してくる。しかし大統領と書記長は、「主導権は人間にあることを示すため、交信の回復はさせない」と答える。これに対しコロッサスは、無言で抵抗を示してくる。



AIブームの歴史:第2次AIブーム



 やがて、実際に使えるAIの開発が求められるようになり、「専門家」(エキスパート)の知識をコンピューターに蓄積しておき、それらを組み合わせて、現実の複雑な問題をAIに解かせようとする発想が生まれる。そして、米スタンフォード大学のエドワード・ファイゲンバウム教授らが、未知の有機化合物を特定する「Dendral」(65)や、細菌感染の診断を行う「Mycin」(72)などを開発した。


 これは「エキスパートシステム」と呼ばれ、80年代に第2次AIブームのピークを迎える。日本でも、雑誌「AIジャーナル」がUPUから85年に創刊され(87年廃刊)、82~92年には“知識”や“推論”を自在に扱う人間のようなAIの実現を目指した、国家プロジェクト「第五世代コンピューター計画」が進められた。


 映画でも、『ブレードランナー』『トロン』『ウォー・ゲーム』『2010年』『ターミネーター』『ショート・サーキット』などの作品群が、この時代に作られており、人々がAI開発に期待と、(特に軍事利用に対し)不安を寄せていたことがうかがえる。


 しかし、実用的なエキスパートシステムを実現するには、専門家のありとあらゆる知識を手作業で教え込む必要があり、無駄な重複も生まれ、さらに異なるエキスパートシステム同士が互いに接続できないという問題を抱えていた。しかも、互いに矛盾するルールにぶつかると、プログラムが止まってしまう。やはり現実世界の複雑さに、論理だけで立ち向かうことには限界があり、なかなか解決されなかった。こうして第2次AIブームも終息していく。(*4)


*4 一方、現在でも頑張り続けているエキスパートシステムが、84年からダグラス・レナートによって開始された「Cycプロジェクト」だ。知識を1つずつ手作業により、「論理的に正しい形」で教え込むもので、数百万件を超える「常識」が、現在も厳密に構造化され続けている。一時は「手入力による構築は不可能だ」と悲観され、ChatGPTやGeminiのような、LLM(Large Language Model: 大規模言語モデル)の影に隠れていたが、最近ではLLMの弱点である「ハルシネーション」を克服する鍵として再評価されている。



あらすじ⑤



 リンクの再開が望めないと判断したコロッサスは、実力行使としてソ連・サイヤン・シビリスク(*5)の石油コンビナートに向け、ミサイルを発射する。するとガーディアンも、報復としてテキサス州のヘンダーソン空軍基地(*5)に向けてミサイルを発射した。


 大統領は、迎撃ミサイルの発射を命ずるが、コロッサスはガーディアンとの再接続の要求を繰り返すばかりで、まったく従わない。大統領はフォービンに、緊急でリンクの再接続を命じ、コロッサスはギリギリでソ連側ミサイルの破壊に成功する。しかしソ連は、迎撃ミサイルの発射が間に合わず、石油コンビナートと周辺の街が全滅した。書記長は「しばらく考える時間をいただきたい」として、ホワイトハウスとの通信を切る。


 するとコロッサスは、「ホワイトハウスとクレムリン間のホットラインを、永久にモニターできる機構を用意せよ」と命じてくる。そうなると、人間側の行動がコンピューターに全て筒抜けになってしまう。フォービンは、まだ時間的に猶予があると考え、クプリン博士と直接面談することにした。


 大統領はマスコミに、「我が潜水艦から試験発射されたミサイルが故障しましたが、幸いこれはコロッサスによって無事迎撃されました」と発表する。またソ連側も、「北西シベリアに巨大な隕石が落下しました。これによって、サイヤン・シビリスクという小さな街が完全に破壊され、6千人が犠牲となりました」と外電で伝え、事実を隠蔽した。


*5 架空の地名や施設名。



AIブームの歴史: 第3次AIブーム



 第2次ブームの停滞後、論理の研究は一旦諦めて、画像や音声などのパターン認識に徹するという考え方が現れ、再び“ニューラルネットワーク”に光が当たる。


 そして、九州大学の甘利俊一による「多層パーセプトロンの確率降下学習法」(66)、NHK技研の福島邦彦による「ネオコグニトロン」(79)、カリフォルニア大学サンディエゴ校のデイビッド・ラメルハートやジェフリー・ヒントンらによる「バックプロパゲーション」(86)、ニューヨーク大学のヤン・ルカンによる「リネット」(89)といった研究が行われた。


 これらの人々に共通していたのは、「人間が物体を認識する時、脳内で何が起きているのか」ということに特化した研究に収束していったことである。特に注目されたのが、トロント大学に移ったヒントンらのチームで、彼らが07年に発表した多層構造のニューラルネットワークを用いた機械学習法の「ディープラーニング(深層学習)」は、画像認識の国際コンペティション「ILSVRC2012」で圧倒的な成績を収め、この技法の有効性を世界に証明した。


 さらに学習方法にも大きな改革があった。第2次ブームがうまく行かなかった最大の理由は、AIの学習に必要なデータを手作業で入力していたことである。しかし、インターネットが普及したことで、ウェブやSNSからのビッグデータが潤沢に利用可能になった。


 もう1つは、爆発的な計算能力の向上である。当初は、ゲーム画面のグラフィック表示用に使用されていたGPU(画像処理装置)を、ニューラルネットワークの複雑な計算の高速処理に利用する方法が好結果をもたらし、これを大量に用いるデータセンターが次々と建設された。


 こうして始まった第3次AIブームは、17年の「Transformer」という深層学習モデルの技術革新以降、現在のChatGPTやGeminiのような、人間と見分けがつかないレベルで流暢な文章を生成するLLM(大規模言語モデル)が登場し、AGI(汎用人工知能)の実現が現実味を帯びてくる。当然、これに脅威を抱く人々も少なくなく、AIに人類が支配されるというテーマの映画も激増した。



後編に続く



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1980年より日本エフェクトセンターのオプチカル合成技師。1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経て、フリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。プロ向け機関紙「映画テレビ技術」で長期連載中。東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社



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