常に近未来社会を予見した作品を作ってきた監督に、アンドリュー・ニコルがいる。しかし公開当時、そのアイデアの斬新さに世間がついていけず、まったく無視されてしまった残念な作品が『シモーヌ』(02)だ。興行収入は全世界で約1,957万ドル。批評家のレビューも散々だった。しかし今日の目で見れば、その未来予測の正確さに驚愕せざるを得ない。生成AIが俳優の仕事を揺るがす現在、『シモーヌ』は“やっと時代が追いついた作品”として再評価されるべきだろう。
Index
- あらすじ①
- 実話に基づくエピソード
- あらすじ②
- アンドリュー・ニコルの先見性
- あらすじ③
- 生成AIを予見
- あらすじ④
- ニコル監督にインスピレーションを与えた日本のCG
- あらすじ⑤
- 『シモーヌ』はピグマリオン型映画の一種
あらすじ①
落ち目の映画監督ヴィクター・タランスキー(アル・パチーノ)は、かつてはカサヴェテス派の作家として注目されていたものの、この10年間はヒットから遠ざかっていた。そんな彼が撮っている新作の主演女優(*1)は、気難しく尊大なスター、ニコラ・アンダース(ウィノナ・ライダー)だった。どこまでも我儘な彼女は、タランスキーに無理難題ばかり要求し、ついには今後の出演を放棄してしまった。
しかも契約書を盾に取り、すでに撮影済みの自分のカットも使用禁止にしてしまう。これによって作品は完成不可能になり、元妻で現在はアマルガメイテッド・フィルムスタジオ社長のエレイン・クリスチャン(キャサリン・キーナー)は、タランスキーにクビを宣告する。唯一、彼の才能をまだ信じてくれているのは、コンピューターオタクである娘(親権は母親側)のレイニー(エヴァン・レイチェル・ウッド)くらいだ。
60年代のベントレーS3コンチネンタルに荷物を詰め込み、スタジオを去る準備をしていたタランスキーの前に、ホームレスのような男が現れる。タランスキーは頭のイカれたファンだろうと解釈し、適当にあしらおうとするが、ハンク・アリーノ(イライアス・コティーズ)と名乗る彼は、8年前にサンノゼで開催された「未来の映画シンポジウム」で議論した発明家だと言う。彼は「将来、人間の俳優は不要だ」と発言して、会場から激しいブーイングを浴びており、そのことをタランスキーも覚えていた。
しかしタランスキーは、「CGによるヴァーチャル・アクトレスには興味がない」と無視を決め込む。だがハンクは食い下がり、「これは“ヴァクトレス”というという別の技術で、どんなことでも可能だ」と主張する。
それでも「私はコンピューターが苦手だ」と帰宅を急ぐタランスキーに、ハンクは「あなたの『わらの神』という作品に感動して人生観が変わった。だから、どうしてもあなたと組みたい」と懇願し、急いでいる理由として電磁波で生じた悪性腫瘍により、余命がわずかであることを打ち明けた。だが、タランスキーは疲労を理由に、スタジオから立ち去ってしまう。
*1 最近は、男女問わず“俳優”と呼ぶのが主流だが、この映画では劇中で“アクトレス”(女優)と言っており、またそのことがストーリーの根幹に関わってくるため、今回はこう表記する。