あらすじ③
タランスキーが、自分専用に与えられたステージに到着すると、そこを守っていた警備員に「シモーヌはいつ来ますか?」と尋ねられる。タランスキーは「君より早く入って、君より遅く帰って行くよ。絶対に外部の人間を入れるな」と強く命ずる。
ステージの中はほとんどカラッポで、中央にポツンとコンピューターが載った机と、大型のモニターだけが置かれていた。早速タランスキーは「SIMULATION ONE」を起動させるが、文字を抜いて行って「SIMONE」とすると、「シモーヌ(Simone)」の映像がモニター上で、M.C.エッシャーの木版画「皮」(Rind)のように、螺旋状にレンダリングされていく。
タランスキーが“MIMIC(模倣)”というキーを押すと、シモーヌは彼の声をリアルタイムに女声へ変換し、次に“LOOP”を押すと「私は本物の終焉」という言葉を繰り返す。するとタランスキーは「メリル・ストリープすぎる」と言って、膨大な俳優のデータベースを呼び出し、ローレン・バコールのハスキー・ボイスを選び出す。さらに表情についても、『ティファニーで朝食を』(61)からオードリー・ヘプバーンの笑顔を学習させる。
タランスキーは自分の言葉を学習させてシモーヌに発音させ、自身と会話をする。その主な内容は、「彼女の存在の事実を世間に公表すべきかどうか」という葛藤についてだった。タランスキーは「本物の俳優たちによる、あまりに理不尽な要求の数々や、高額すぎる出演料…。しかし安く済むフェイク俳優の出現によって、状況は大きく変わったんだ。演技が純粋で心を打つのなら、何も本物にこだわる必要はない。そもそも本物って何だ? 今の映画はデジタルで加工されるのが普通で、フェイクとの境界は曖昧だ。作品だけが真実なんだよ。君のことは次回作の後に公表する」とつぶやき、シモーヌの顔を見つめる。そして「美しい…。美し過ぎる」といって、頬にホクロを加える。