クロエ・ジャオが東京で語った世界観
ジャオ監督は2025年に東京国際映画祭の特別ゲストとして来日し、是枝裕和監督と公開対談を行っている。11月2日に行われたイベントは彼女の世界観を知ることができる興味深いイベントとなった。
『ザ・ライダー』で彼女は、ロデオで負傷したライダーを主人公にしていたが、こうした過去の作品に関して、こんな話をしていた。
「もしも、アメリカ人が西部劇的な要素もあるテーマを撮る場合、すごくプレッシャーを感じたのではないかと思います。でも、アジア人の私の立場はそうではなかったんです。同じように『ハムネット』でシェイクスピアを描く時も、イギリス人のようにプレッシャーは感じなくてすみました。私の好きな映画には言葉で語られない要素が入っていて、人物の表情や体の反応が、その気持ちを代弁します。その国の言葉が母国語でない場合、言葉では表現できない別の要素をうまく使えば成立することもあるのです」
是枝裕和×クロエ・ジャオ 対談|国際交流基金×東京国際映画祭 co-present 交流ラウンジ
※本記事ではこの対談を別途翻訳しており、動画の翻訳音声と異なる箇所もあります。
ちなみに彼女は自分が好きな西部劇としてあげていたのは、クリント・イーストウッド監督の『許されざる者』(92)とロバート・レッドフォード主演の『大いなる勇者』(72)だった。どちらも自然の中に身を置いた男たちの物語だ。
代表作の『ノマドランド』は、夫の死後、アメリカを車で旅をしながら暮らす女性を通じて、人間の心を癒す自然の雄大な力も伝わってきたし、『ハムネット』では自然に寄り添って生きるアグネスも自然の申し子だ。野生の知性を持つアグネスの中に、ジャオは『大いなる勇者』のレッドフォード演じる孤高の自然児、ジェレマイア・ジョンソンの魂も重ねて見たのかもしれない。
東京で目撃したジャオは華奢に見える体の奥にタフな精神を秘めているように見えた。別のインタビューで「私は男のように育ったのよ」とも語っていたが、『ノマドランド』や『ハムネット』の女性像には、彼女の強さも読みとれる。その対談ではゴツゴツする自然の風景や野生の力を映像に収めてきたヴェルナー・ヘルツォークも好きなドキュメンタリー監督としてあげていた。さらに「詩的な要素を通じて真実をとらえることも大事だと思います。時として詩には真実をとらえる力をあるのです」とも語っていたが、彼女の作品群には確かに豊かな詩心も読みとれる。
是枝監督の『ワンダフルライフ』(98)が大好きです、とも語り、この映画が持つ<ビタースイートネス>(ほろ苦さ)という感覚にも言及していた。
「シェイクスピアも実人生とうまく折り合いがつけられない部分があった。でも、舞台ではひじょうにうまく世界に触れることができるんです。そんな彼はほろ苦さも抱えていたはずです」と語っていた。ポール・メスカル演じる繊細なシェイクスピア像には、そんな彼女のイメージが託されていたのだろう。