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『アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター』アクションが物語を牽引する、ジェームズ・キャメロンの真髄
物語を牽引するアクション
『ターミネーター』(84)『エイリアン2』(86)『ターミネーター2』(91)『タイタニック』(97)など、これまでキャメロンが手掛けてきた作品は、限定的な期間を舞台にした作品が多く、ほぼ数日間の出来事を瞬発力で描いてきた印象があるが、『アバター』はそれらの作品とは違い、数ヶ月にわたる期間の物語となっている。期間が長くなった分、主人公の成長部分をより丁寧に紡ぐことで、観客の感情移入を促し物語に奥行きが出てきているとも言える。
そこに更に加わってくるのが、キャメロンのアクション演出の巧みさだ。編集のリズムや流れ、撮影の構図なども抜群に上手いのだが、数多ある他のアクション映画と一線を画すところは、アクションがストーリーを牽引しているところ。決して爆発や格闘を見せることを目的にはしていないため、過激な描写を追求したり、キャラクターの「強さのインフレ」に陥ることもない。アクションはあくまで手法であり、それを最大限に活かして物語を進めていく。
ジェイクがナヴィの中で一人前のハンターになるため、イクランと呼ばれる翼竜を捕まえ大空を舞うシーン。格闘の末イクランに乗って初めて空を飛び、その才能に目覚めていくのだが、このシーンがとにかく素晴らしい。一人前のハンターになるという成長、そして成長を支えてきたナヴィの娘ネイティリとの心の交流を、空を飛ぶというアクションに集約させ、3D効果も最大限に活かし観客をスクリーンに釘付けにする。これまで色んな映画で散々観てきたはずの空を飛ぶというシーンに、大いに感情移入させられてしまうのだ。
『アバター:ジェームズ・キャメロン 3Dリマスター』(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
また、クライマックスで描かれるナヴィと人間のド迫力の戦闘シーンでも、キャメロンの手腕は遺憾なく発揮される。驚くべきは、空と地上で激しい戦いが繰り広げられるにも関わらず、戦況がどうなっているか、誰がどこで何をしているかが非常に分かりやすいこと。つまり決してストーリーは置き去りにされず、戦況による今後の展開(への想像)や、キャラクターの状況(特に死)をしっかりと伝えることで、アクションの凄さと感情の揺さぶりを同時に体感させる。まさにスペクタクルとカタルシスを生み出しているのである。
他にも、ケレン味あふれた音楽の使い方や、状況を利用したアクションの流れなど、キャメロンのアクション演出は枚挙にいとまがない。墜落する大型ヘリからクオリッチ大佐がAMPスーツで脱出するシーンはまるで歌舞伎の大見得のようだし、その後のジェイクとの戦いでも、ヒビの入ったフロントガラスで前が見えなくなったり、ジェイクの人間の体が置いてある建物を攻撃したり、酸素が足りなくなったりと、状況やアイテムを利用した演出が非常に巧みだ。強い者同士が戦うだけだったり、アクションが派手だったりするだけでは決してないのだ。