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『未知との遭遇』あの伝説的な交信メロディはどのように生まれた?

c) 1977, renewed 2005, (c) 1980, 1998 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

『未知との遭遇』あの伝説的な交信メロディはどのように生まれた?

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いかにして「5つの音」は奏でられたか?



 では、肝心の「5つの音」は、一体どのようにして生み出されたのだろう。まず、スピルバーグは頭の中に、史上初めての遭遇を果たす地球人と宇宙人を思い浮かべた。当然ながら彼らは互いの共通言語を持っていない。そのような間柄で、心と心、感覚と感覚を通じ合わせるには、一体どうすれば良いだろうか・・・。この大きな難題への解決策として、彼はある時、ふと、「光」と「音」を使えば言語を超えたコミュニケーションが可能になるのでは?と思い至る。そしてすぐさま、ウィリアムズに「5つの音から成るメロディを考案してほしい」と依頼するのである。


 ウィリアムズにとってみれば、使える音がたくさんあればあるほど表現の幅が広がるわけで、「せめて7音くらい使わせてくれないか?」と要望するのだが、当のスピルバーグは「7音だと複雑になりすぎる。必要なのは文法を伴わない“シンプルさ”。そのためには5音がベストなんだ」と言って譲らなかったという。なるほど、目指したのは異国の地で口にする「ハロー」に似た、絶妙なファーストコンタクトの“第一声”だったわけだ。


 それからウィリアムズは、約300通りの音の組み合わせを考えて「もう限界だ!」と感じたと言うが、当のスピルバーグは知人の数学者に「12音から5音を選んだ際の組み合わせのパターンはどのくらいある?」と尋ねて「約13万4千通り」という答えを導き出し、ウィリアムズに「まだまだ頑張れる!」と発破をかけたらしい。(30周年記念版 DVD特典映像収録のエピソードより)。



『未知との遭遇』(c) 1977, renewed 2005, (c) 1980, 1998 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.


 結局、さらに数多くの組み合わせが生み出される中、「これは使えそうだな」と感じた案にはウィリアムズが前もってチェックを付けていたそうで、それを参考にスピルバーグが「これを聞かせてほしい」と指差し、直感的に選んだメロディを耳にするや「探し求めていたのはこれだ!」とOKを出したのだとか。こうして、あたかも本当の宇宙研究家たちが試行錯誤するかのようなアプローチによっておびただしい候補が生まれ、そこからスピルバーグ自身の手によって最終的に選ばれたのが、この「5音のメロディ」だったというわけだ。


 このメロディをフル活用した「光と音を使ったコミュニケーション」は、彼の狙い通り、単なるSF映画の域を超えた壮大な“音楽劇”となった。とりわけ凄いのは、クライマックス部分にほとんどセリフがなく、全ての意味合いが映像のみで十二分に伝わって来るところだろう。この映画の前では、地球上の全人類、いやきっと宇宙人もまた、いっさい字幕を必要とせずに等しくこの内容を理解できるはずだ。


 スピルバーグはこの映画によって、ある意味“共通言語”を生み出したのかもしれない。だからこそ我々は、今なお本作に触れるたび、そしてあの5つの音を聴くたびに、自ずと「誰もが繋がりあった世界」を想起せずにいられない。これぞ『未知との遭遇』が持つ真の力。その重要性は製作40周年を経てますます高まるばかりだ。地球上の人類が分断へ向かおうとしているようにも思える昨今、人々が改めて本作のビジョンに触れることは、忘れかけていた“尊さ”を取り戻す大きなきっかけとなるのではないだろうか。




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