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『わたしを離さないで』心をかきむしる、「作り物」たちの残酷な人生

(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『わたしを離さないで』心をかきむしる、「作り物」たちの残酷な人生


登場人物の心を示す、水のイメージ



 『わたしを離さないで』の中で、提供者たちが唯一見せる生の感情、それは「涙」だ。キャシー、ルース、トミーそれぞれに涙を流すシーンが用意されており、その瞬間だけは切なさを呼び起こす。ただ、注意して観てみると3人の涙の流し方はどの場面でも似通っており、素直に感情移入することができない。キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイといった演技派たちが、一様に同じ泣き方をするとは考えにくい。これはうがった見方かもしれないが、「涙すらもプログラミングされているのか」――そう感じて背筋が寒くなる。


 彼らの代わりに涙を流すのが、劇中で要所要所に登場する「水」のイメージだ。自分たちの運命を知る日は雨が降っており、キャシーがルースとトミーの決定的な瞬間を目撃してしまうとき、その手にはマグカップがある。3人が揉めるシーンは海岸で、キャシーが2人の元を離れるときは水たまりがあり、「~そのことがわかっていれば、2人の手を離さずに潮の流れに逆らったのに」という台詞が流れる。その後も、浜辺に3人で行くシーンなど、偶然とは思えぬほど多くの水のイメージが現出する。彼らの運命に直接干渉できず、ただそこに存在する「水」は、行き場のない悲しみのよう。



(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 従来の「クローンもの」は、登場人物たちに人生の選択をする「感情」や「思考」、さらには「選択肢」があった。それは希望であり、彼らがどんな出自にせよ、人間であるという証明でもあった。『わたしを離さないで』は、その聖域すら犯してしまった。


 この映画を観て怒りを覚えたり、嫌悪感を抱くこと、或いはどうしようもない悲しみを感じること――それは観客が彼らに渡せる、せめてもの手向けなのかもしれない。




文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」



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『わたしを離さないで』

ブルーレイ発売中

 ¥1,905+税

20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン

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