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『ノーカントリー』主張も痛みも何もない恐怖。前時代に終止符を打つ「情の消失」

(C) 2007 by Paramount Vantage, a Division of Paramount Pictures and Miramax Film Corp. All Rights Reserved.

『ノーカントリー』主張も痛みも何もない恐怖。前時代に終止符を打つ「情の消失」

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逃げ続ける主人公が象徴する「強いアメリカ」の終焉



 冒頭のベルの語りで示唆されるように、本作は西部劇的なかつての米国が破壊される姿を描いている。アウトローであるモスは脅威から「逃亡」し、現代的なサイコパスであるシガーが「追跡」する。前時代の体現者ベルは「介入」を試みるが、基本的に後追いのまま物語は進行する。


 年長者が弾かれ、ザ・アメリカンな無法者が追われ、異国の存在が侵食していくという構造は、レーガン政権下にある80年代の米国が迎えていた1つの転換期を象徴しているようだ。奇しくも、インターネットが実用化されて世界が繋がるのが1983年(諸説あり)。本作で描かれる時代は、ガラパゴスが終わりを告げる、最後のタイミングともいえる。


 シガーの強烈な存在感に隠れがちだが、モスが「戦わない」シーンにも注目していただきたい。血に染まった大金を偶然見つけた帰還兵という設定は、往年の西部劇であれば実に主人公らしいものだ。しかし、モスは銃撃戦に巻き込まれた際に「敵前逃亡」をはかる。撃ち返すことなく荒野を逃げ続け、川に飛び込み犬に追われる姿は、従来の主人公像を覆す非常に現代的なアプローチだ。



(C) 2007 by Paramount Vantage, a Division of Paramount Pictures and Miramax Film Corp. All Rights Reserved.


 その後もモスは一貫して逃げ続け、襲撃された際の準備はするものの自分から攻撃することはない。プライドや体面よりも、生存を第一に考える。今の感覚で観れば「普通」かもしれないが、「強いアメリカ」の1つの終焉のようにも感じられる。


 イラク戦争後、『ジェイソン・ボーン』シリーズ(02~16)や『クラッシュ』(04)、香港映画『インファナル・アフェア』(02~03)を翻案した『ディパーテッド』(06)、『フィクサー』(07)などアメリカの「自己否定」的な映画が隆盛を極めたが、2007年に公開された本作もまた、80年代を舞台にしつつもゼロ年代の空気感を明確に反映した作品ともいえるかもしれない。



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