菅田将暉は、極めて異質な存在だ。CMやラジオでは屈託のない笑顔を見せているが、映画の世界に入った瞬間、狂犬のごとき野性味をほとばしらせる。爽やかな少年性と危険なギラつき。まさに、スクリーンに愛される役者と言って差し支えないだろう。
1993年生まれの菅田は、新人発掘オーディションをきっかけに芸能界入りし、2009年に『仮面ライダーW』でデビュー。その後、現在に至るまで途切れることなく映画・ドラマに出演し続けている。ライトな娯楽大作からディープなアート作品まで、規模もジャンルも関係なく活躍できる、という点も彼の大きな強みだ(これは、松坂桃李や中村倫也ら、同じ所属事務所トップコートの俳優陣に共通する特長でもある)。
興味深いのは、エッジーな作品で輝く生粋の役者でありながら、俳優業だけにとどまらないマルチな活動を行っていること。音楽活動も精力的に行っており、amazarashiや米津玄師ともコラボレーション。2017年の映画『キセキ あの日のソビト』では、成田凌、横浜流星、杉野遥亮と劇中グループ「グリーンボーイズ」名義でハスキーかつ伸びやかな声を披露している。菅田将暉は、既存の役者の枠を拡張する、ニュータイプの役者だ。
現在は、放送中のドラマ『MIU404』に出演するほか、中島みゆきの楽曲をモチーフにした映画『糸』、二宮和也・妻夫木聡と共演する中野量太監督作『浅田家!』、人気脚本家・坂元裕二による『花束みたいな恋をした』など、話題作が多数待機中。
今回は、そんな菅田将暉の出演映画から、10本を厳選して紹介する。
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- 1.『共喰い』(13) 監督:青山真治 102分
- 2.『そこのみにて光輝く』(14) 監督:呉美保 120分
- 3.『ディストラクション・ベイビーズ』(16) 監督:真利子哲也 108分
- 4.『セトウツミ』(16) 監督:大森立嗣 75分
- 5.『溺れるナイフ』(16) 監督:山戸結希 111分
- 6.『キセキ あの日のソビト』(17) 監督:兼重淳 111分
- 7.『帝一の國』(17) 監督:永井聡 118分
- 8.『あゝ、荒野』(17) 監督:岸善幸 前篇:157分 後篇:147分
- 9.『生きてるだけで、愛。』(18) 監督:関根光才 109分
- 10.『アルキメデスの大戦』(19)監督:山崎貴 130分
1.『共喰い』(13) 監督:青山真治 102分
人気俳優の登竜門である「ライダー俳優」を経て、順調な滑り出しを切った菅田。ドラマ・映画と出演数を重ねる中、1本の映画が彼のその後のキャリアを決定づけたといってもいい。それが、『共喰い』だ。
監督は『EUREKA』(00)の青山真治、脚本は『ヴァイブレータ』(03)の荒井晴彦、原作は田中慎弥による芥川賞受賞作と、作家性が非常に高いメンバーがそろった。菅田は、オーディションによって主役の大役を勝ち取った(彼のまなざしが高評価を得たそう)。
舞台は、昭和63年の山口県・下関。父親とその愛人と暮らす17歳の男子高校生の鬱屈した、それでいて危うげな青春を生々しく描き出す。菅田は、父親役の光石研、母親役の田中裕子といった名優たちにも物おじせずに果敢に挑み、セックスシーンにも全力でぶつかった。まだ演技派として染まりきっていない、菅田の“青さ”が得も言われぬリアリティをもたらし、物語全体にのたうつようなうねりを生み出している。
暴力的な父親と同じ血を引くことにおびえながら、どうしようもなく湧き上がってくる性や暴力の衝動に抗おうとする男子高校生の日常。ただれた性生活を送る父親を独特の卑しさで演じ切った光石、すべての落とし前をつけようとする圧倒的な母性を体現した田中と菅田の演技のアンサンブルも、大いに見ものだ。
決してセリフが多いわけではない本作の中で、菅田は佇まいだけで感情を伝える“文学性”を見事に発揮。彼の孤高ともいえる異質なフィルモグラフィは、本作がなければ生まれなかったかもしれない。