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東欧・ロシア映画おすすめ6選:『異端の鳥』に至る、民族と戦争の記憶をたどって
2019年のヴェネツィア国際映画祭でコンペティション部門に出品され、『ジョーカー』(19)に匹敵する話題を集めたチェコ・スロバキア・ウクライナ合作の衝撃作『異端の鳥』が、いよいよ日本でも劇場公開される。かつてソビエト連邦構成国(ロシア自体も含む)や東欧諸国の映画は、思想や文化の面で連邦共産党の影響下にあった。だが『異端の鳥』は、1991年のソ連崩壊から四半世紀以上を経て、この地域の映画が自由な表現を獲得し発展させてきたことを象徴する画期的な1本だ。
本稿では『異端の鳥』の日本公開を機に、1980年代以降の東欧・ロシア映画6本を紹介。旧ソ連構成国および東欧諸国に重大な影響を及ぼした、第二次世界大戦の欧州東部戦線を扱った作品を中心に、個性が際立つ作品たちだ。
Index
- 1.『炎628』(85)ソ連 監督:エレム・クリモフ
- 2.『アンダーグラウンド』(95)フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラビア、ブルガリア合作 監督:エミール・クストリッツァ
- 3.『裁かれるは善人のみ』(14)ロシア 監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
- 4.『心と体と』(17)ハンガリー 監督:イルディコー・エニェデイ
- 5.『T-34 レジェンドオブウォー』(19)ロシア 監督:アレクセイ・シドロフ
- 6.『異端の鳥』(19)チェコ・ウクライナ 監督:ヴァーツラフ・マルホウル
1.『炎628』(85)ソ連 監督:エレム・クリモフ
エレム・クリモフ監督、1985年公開のソ連映画。ただし原作小説の著者アレシ・アダモヴィチはベラルーシ出身で、映画の舞台も「ハティニ虐殺」が起きたベラルーシの村であることから、ソ連崩壊後であればベラルーシ製作となっていたかもしれない。邦題は、ドイツ兵による虐殺でベラルーシの628の村々が焼かれたことからつけられた。
白いロシアを意味する国名のベラルーシ。かつて「白ロシア」と呼ばれ、DVDの字幕でも冒頭で「1943年 ドイツ軍占領下の白ロシア」と説明される。この国は東の国境ではロシアと、西ではポーランドと接している。ポーランドと同様、ドイツのベルリンとロシアのモスクワの“通り道”に位置することから、ドイツとロシアという2大強国が衝突すれば戦渦に巻き込まれる宿命にあった。
主人公の少年フリョーラはパルチザンに志願するが、ドイツ軍部隊はパルチザンによる襲撃への報復として、無抵抗の村人たちを次々に虐殺してゆく。家族を皆殺しにされ、自らも死の恐怖を味わったフリョーラの顔に、(特殊メイクで)老人のような皺が刻まれていく様が強烈な印象を残す。
戦争の暴力性や不条理を、イノセントな子供の視点から描くことで際立たせる手法は、『異端の鳥』にも通じる。もうひとつ興味深い接点として、フリョーラを当時十代半ばで演じたアレクセイ・クラヴチェンコが、『異端の鳥』の終盤で主人公の少年を助けるソ連兵の役で出演している。
ナチスドイツの戦争犯罪を告発しつつも、強国に挟まれたせいでベラルーシの罪なき村人たちが虐殺されたことへの恨み節もさりげなく込めた点に、ソ連構成国の複雑な国民感情がうかがわれる。