『イレイザーヘッド』がもたらしたサウンドデザインの衝撃
Q:個人的にはデヴィッド・リンチ監督と、彼を支えたサウンドデザイナー、アラン・スプレットへの接触が興味深かったです。『イレイザーヘッド』(77)などのいわゆる“ミッドナイト・ムービー”(注1)はアメリカ映画に大きな影響を与えましたが、音の側面からそれを裏づけたのは『ようこそ映画音響の世界へ』の偉業のひとつです。この点について、どのように捉えて取り組んだのか教えてください。
コスティン:『イレイザーヘッド』は私の学生時代に公開されましたが、完全に打ちのめされました。意図的に創造された、家の中の部屋のトーンや、ヒーターの音、そして外のガヤなどすべてが刺激的でした。当時、アラン・スプレットのことは知っていて、どのようにAFI(アメリカン・フィルム・インスティチュート)で二人が出会い、コラボレーションしたかも知っていました。何人かの友人がサンフランシスコのベイ・エリアでアランのサウンド・クルーとして働いていたので、接点もあったんです。また、アランは元チェロ奏者でもありました。
彼の手がけた『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(79)、『エレファント・マン』(80)、『ネバー・クライ・ウルフ』(83)、『ブルーベルベット』(86)、『いまを生きる』(89)などは大好きですね。
しかし残念ながら、アランは1994年に亡くなってしまっているので、彼の妻でありコラボレータ―のアン・クローバーに取材したんですが、彼女のインタビューシーンを映画に入れることができず残念でした。彼女とアランがフィールド・レコーディング(外部での録音)に出かける様子を語ってくれたインタビューは、本当に素晴らしかったんですよ。彼らは子どもの遠足のように、楽しみと発見に満ちたレコーディングに出かけていたんです。
意外かもしれませんが、デヴィッド・リンチは『ようこそ映画音響の世界へ』のインタビューに最初に応じてくれた大物監督です。私は、彼がどれほど音響を大切にしているか知っていましたし、彼の前のコラボレーターであるメアリー・スウィーニーと友人なので、彼女がリンチを紹介してくれたんです。
ダークな映画を撮る監督に優しいイメージはないと思われますが、リンチはとてもチャーミングで誠実な人でしたよ。インタビューはじつに面白く、彼のマインドが音にどのように機能するか、そして音に対してどのような考えを持っているのかを聞くのがとても楽しく、その考えはとてもユニークなものでした。
リンチとスプレットは我々に、アメリカ映画の音にも注目するべきだということを教えてくれました。どちらも音楽を愛し、音に対してとてもセンシティブなのです。
(注1)1970年代初頭に始まった、ニューヨークを中心とする深夜興行により、カルトな支持を得た非メジャーのアンダーグラウンド作品の総称。『イレイザーヘッド』の他に『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68)や『エル・トポ』(70)などが該当する。