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『ようこそ映画音響の世界へ』音響編集者自身が監督した傑作ドキュメンタリー ミッジ・コスティン監督インタビュー【Director’s Interview Vol.85】

『ようこそ映画音響の世界へ』音響編集者自身が監督した傑作ドキュメンタリー ミッジ・コスティン監督インタビュー【Director’s Interview Vol.85】

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優れた女性サウンドデザイナーの台頭について



Q:女性の音響関係者も作品の中で何人か登場し、証言されていますね。彼女たちのように優れたサウンドデザイナーやサウンドエディターの台頭は、いま業界の傾向としてあるものなのでしょうか? 


コスティン:今日、そして過去20年から40年くらい前も、映画音響の世界では才能ある優秀な女性が活躍しています。でももっと昔は、女性は少なく、今でもその絶対数はとても少ないと思っています。


映画音響の分野で史上初めて、女性でアカデミー賞を受賞したケイ・ローズは、この業界でのパイオニアです。『トップガン』(86)の音響の共同監修をつとめたセシリア・ホールは、70年代に女性で活躍していたのは、ケイとヴィクトリア・サンプソンしかいなかったと語っています。その後はより多くの女性が活躍するようになったものの、皆がサウンドエディターをつとめるのではなく、ダイアログ編集などを主にあてがわれていました。ダイアログ編集は、キルトのようにモノを縫って繋いでいくような作業だと思われていたのでしょうね。


そして男性たちは爆発、銃撃、乗り物など効果音の編集を大作アクション、アドベンチャー映画でおこなっていました。しかし、そんな中でも例外はセシリアと他に数名いて、90年代の私もそのうちの一人でした。またテリー・エクトンは、『プライベート・ライアン』(98)で銃声の編集、『スター・ウォーズ』シリーズではベン・バートが作ったオリジナルをもとに、多くのクリーチャーの音を編集していました。




そして現代、最もエキサイティングな女性サウンドデザイナーはアイリン・リーでしょう。彼女はシンガポール出身で、ハリウッドではもう20年間働いており、『ラ・ラ・ランド』(16)、『デッドプール』(16)、『メイズ・ランナー』(14)、『わたしに会うまでの1600キロ』(14)、『ファースト・マン』(18)などを手がけています。アカデミー賞に4度ノミネートされ、加えてリレコーディング・ミキサーであり、サウンド・デザイナー、音響編集者でもあります。


私はこの映画で、女性やマイノリティの人々に、自分たちでもこの仕事ができるんだ、ということを感じて欲しかったんです。なので私にとって様々な人々の活躍や、その多様性を示すことで、音響という職種がどんな人にとってもオープンなものであることを表現することが重要でした。


Q:『トップガン』のサウンドについて、猛獣の咆哮を飛行音に使ったというエピソードが登場します。このように現実音を転調させ、加工して用いる「ミュージック・コンクレート」で有名な作品に、我が国の『怪談』(65)があるのですが、ご存知でしょうか? 武満徹が同作の音楽音響を担当し、その取り組みが賞賛されて、カンヌ映画祭で特別賞を獲得しました。


コスティン:『怪談』は未見なのですが、武満徹と彼の音楽上の功績については知っています。武満は私の好きな黒澤明監督の『』(85)を手がけていましたから。



当初、我々はこの『ようこそ映画音響の世界へ』を、日本映画などを含めたインターナショナルな音響に関するものにしようと計画していましたが、限られた予算では実現できませんでした。ですので、この作品は非常にアメリカの視点からの映画といえます。しかし、世界中の国や地域には、それぞれの映画音響に関する素晴らしいイノベーターやクリエイティヴなものが存在します。それらの国や地域の映画音響が、どのように進化していったのか、ぜひ知りたいですね。


本作で描けなかったことは、まだまだたくさんあります。アニメの歴史、ステレオとマルチトラックの歴史、サウンドシステムの黎明期の発明合戦、多くの人々の詳細な物語など。我々は90人のインタビューと200時間におよぶ撮影をおこないました。これらの宝のような素材も、いつか人々に見てもらえるようにできればと思っています。



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