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『ようこそ映画音響の世界へ』音響編集者自身が監督した傑作ドキュメンタリー ミッジ・コスティン監督インタビュー【Director’s Interview Vol.85】

『ようこそ映画音響の世界へ』音響編集者自身が監督した傑作ドキュメンタリー ミッジ・コスティン監督インタビュー【Director’s Interview Vol.85】

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ドルビーの映画ビジネスへの参入と、バーブラ・ストライサンドの偉業



Q:他にもバーブラ・ストライサンド製作・主演の『スター誕生』(76)こそが、ドルビーステレオ(注2)の起点だと言及している点にも感心しました。というのも、最初にドルビーステレオを採用したのは『スター・ウォーズ』(77)だと勘違いしている人が多く、特に日本では同作の公開が全米より1年遅く、ステレオプリントによる上映の環境が充分に整ってから封切られたので、よりそう思われているふしがあります。


コスティン:バーブラ・ストライサンドの映画音響への貢献については、ドルビーラボラトリーズのエンジニアであるイオアン・アレンへのインタビューで初めて知りました。面白かったのは、バーブラ自身がドルビーステレオを劇場に導入するきっかけを作ったことを、まったく自覚していなかったことです。


イオアンが音楽の世界に留まっていたドルビーの映画への参入を、レイ・ドルビー(ドルビーラボラトリーズ創設者)に助言したのです。もともとレイはあまり乗り気でなく、映画会社に聞いてみて需要があるかどうかを確かめる、とイオアンに伝えました。



映画会社は興味を示しつつも、ドルビーシステムに移行するには莫大な費用がかかるため、それを拒んでいました。しかしイオアンが『時計じかけのオレンジ』(71)に取りかかっていたスタンリー・キューブリックや、『スター誕生』のバーブラに提案したところ、ともに「イエス」と答え、ドルビーを使いたいということになったのです。なにより当時のバーブラはメジャースタジオに多額の利益をもたらし大人気だったので、スタジオは何でも彼女の言うことにOKを出していたようですが。


バーブラはドルビーステレオがその時点で一般的なものだと思っていたらしく、映画音響の歴史において、彼女が成し得たことがいかに重大であるかを伝えると、とても驚き、自分がキューブリックやジョージ・ルーカスと並ぶ重要人物であることを改めて実感したようです。しかしバーブラは映画業界にもたらした多くの偉業に対し、正当な評価を受けていません。クリストファー・ノーランやマイケル・マンのような才能ある尖った男性監督の場合は、すぐに「天才だ」と称賛されますが、彼女はその素晴らしい仕事に見合うリスペクトを受けてこなかったのです。


(注2)ドルビーラボラトリーズが開発した高品質の音響フォーマット。左、中央、右、後方の4チャンネル音声を2チャンネルに変換し、サウンドトラックに記録する方式。なおスタンリー・キューブリックが『時計じかけのオレンジ』で採用したのは「ドルビーAタイプ」と呼ばれるノイズ軽減方式のもので、音のミキシングとレコーディングプロセスにおいて用いられ、劇場公開時はドルビーでエンコードされていないモノラル光学サウンドトラックで上映された。



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