なぜクリストファー・ノーランは5.1chでストップしたままなのか?
Q:『ブラックパンサー』(18)のライアン・クーグラー監督などの新しい作家は、どのような着目点から本作に出てもらおうと企図したのですか?
コスティン:ライアンはUSCでの私の生徒でした。彼は監督作のプロジェクトに取りかかる前、私の授業を受けに来て「自分の知らない領域なので、事前に勉強したかった」と言ってくれたんです。彼は素晴らしい人間性と才能にあふれていて、授業を受ける姿勢からそれがよくわかりました。そのように映画の音響を大切にしてくれているので、ぜひ今回の映画に出演してもらいたいと思ったんです。
また、彼は1学期目に学校で、自作の作曲家となるルドウィグ・ゴランソンと出会っています。ルドウィグもUSCに通っていて、ライアンの学校での初監督作の音楽を手がけました。彼らはともに素晴らしいコラボレータ―で、物語の力とキャラクター、エモーションをよく理解しています。
Q:ゴランソンといえば、彼が作曲をつとめた『TENET テネット』(20)のクリストファー・ノーランにもインタビューしていますね。ところでノーランは、あれだけ現実的な映像体験を追求しながら、なぜ自作の音響フォーマットは5.1chでストップしたままなのでしょうか?
コスティン:ノーランは音をとても大事にしています。彼のサウンド・デザイナーをつとめるリチャード・キングは素晴らしいです。ノーランは自分自身が何を求めているかを知っていて、そのアイデアから離れることはありません。もしかしたら作品のすべてのディテールに気を配っているので、音に関連するさまざまな方法論を試す時間がないだけかもしれません。映画はマルチチャンネルの数が増すほど、作業プロセスは複雑化してしまうので…。
そういえば、ノーランの新作が初日を迎えた週末、それをチャイニーズシアターに観に行ったことがありますが、彼は必ず映画館を訪れ、音と画に問題がないかをチェックしています。特に音が下げられていないかなどを念入りに。
Q:数々の著名な映画人からコメントを得ていますが、もし存命でない人から音響の話を聞くとしたら、誰を指名したいですか? スタンリー・キューブリックなどは音へのこだわりを見せていたので、最有力候補の一人だと思いますが。
コスティン:キューブリックは最高ですね。すでに亡くなった監督に話を聞く機会が与えられるのならば、他にも黒澤明やアルフレッド・ヒッチコック、そしてオーソン・ウェルズといった先人たちの音響アプローチも、とても興味深いと思います。あと、存命の監督でインタビューしたかったけれども、実現しなかった監督たちは、キャスリン・ビグローにコーエン兄弟、マーティン・スコセッシやスパイク・リー、テレンス・マリック、そしてジェーン・カンピオンです。