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『レディ・プレイヤー1』と未来のアイデンティティ 「Cinema未来館」SFは未来のシナリオか?【CINEMORE ACADEMY Vol.11】
なりたい自分になるためのアバター
Q:Slidoに「VR内で全然違うキャラクターになると性格も変わりそう」というコメントがあったのですが、お二人はどう思われますか。
久保:バーチャルのキャラクターの話ではないのですが、2000年代前半に日焼けして髪を脱色しているギャルと呼ばれる女の子たちがいましたよね。彼女たちは渋谷に集まってコミュニケーションしていたのですが、実はその渋谷がある意味バーチャル世界のような場所だったのではないかと思っています。
現代でもそういったギャルに憧れている子たちがいて、なぜ日焼けしたり髪を脱色したいのか尋ねてみると「ギャルになると何でも発言できたり、強くいられるから」という風に言っている子がいて。ギャルというある意味一つのアバターがあって、彼女たちは性格や精神性を変えるためにビジュアルを変えている。そういうことがバーチャルでも行われているのかもしれませんね。
Q:なりたい自分になるために、ガングロメイクをしたり、アバターを作ったりと。
宮本:プロテウス効果と言われるものがあって、例えばVRでバットマンのゲームをやってもらうと、VRでのバットマン体験がその後の善行に反映されて、良いことをするようになる、みたいな現象があるんです。おそらくVR上で違う生き物になったら、自分の行動が変化したりすると思います。
あとは、そもそもアバターを選ぶというところでも思想が現れるというのが大きいですね。例えばVRChatというバーチャル空間でのSNSのようなものがあるのですが、そこでは女性キャラクターが多い印象があります。また、ルッキズムや男性女性という概念から離れようと思っている人は、無機物のキャラクターを選んだりすることもあるし、結局は選ぶところから思想や好みが反映されているんじゃないでしょうか。
Q:バーチャル空間では、人間以外の動物や機械になりたいというような多様性を担保することが、大事になってくるのでしょうか。
宮本:そうですね、ある程度選択肢が自由であるべきというのはその通りです。ただ、人に不快感を与えないものにしなくてはいけない等、一定の束縛がないと難しい面もあると思います。
久保:女の子からすると、自由すぎるとちょっと困るんですね、あえて束縛を作りたいというか。ファッションでもそうですけれども、自由すぎると困るから、制服がある上でそれをカスタマイズすることが楽しい。
流行もそうで、型があった上で一部外すことで、かえって自分らしさが作れる。女の子に自由にアバターが作れるとしたらどうか、と聞いても自分をベースに足を長くしたり目を大きくしたりしたいと言う子が多いですね。元々、自分というものを素材にして何かを作るのが好きなんじゃないかな、と思います。
宮本さんがVRChatでは女性キャラクターが多いとおっしゃっていました。男性女性で分けられるものではないと思うのですが、実際の自分から離れたアバターを作りたい、プラモデルを作るようにアバターを作りたい人もいると思います。一方で自分という素材の延長でアバターを作りたい人もいるのではないかな、と思います。
宮本:VRChatのユーザー層がどうなっているか分からないのですが、男性が女性キャラクターをやってみたいというケースも結構あると思います。おそらく自分とある程度近い形をしているのだけれども、自分とは違うものとして女性キャラクターがあるのではないですかね。
それからVTuberみたいなものをやろうとすると、元の人間がどう動いたらアバターがどう動くかということを対応付けしなくてはいけなくて。元が人間で、演じるのも人間だと対応付けしやすいのですが、無機物とか全然違うものだとなかなか対応付けしにくいですよね、イメージしにくい。
自分と形は似ているけど違うものになる、というのは簡単だし楽しいというのがありそうですね。
久保:ツールが規定するということですね。また女の子の話なのですが、2000年代の後半くらいにすごくデカ目が流行った時期がありまして。それがなぜ目だったかというと、目というのが顔認識しやすくて、目の加工ツールが最初にあったから目だったんですよね。輪郭を認識して加工するというツールがまだ当時なかったのです。
みんなそれほど技術力やクリエイティビティがあるわけでもないし、結局あるツールを使うということで、ツールに規定される。無機物のアバターを動かすというのは、まだ才能が必要とされちゃいますよね。もっと無機物キャラを簡単に作れるようになれば、みんなやるようになるかもしれないですね。