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『レディ・プレイヤー1』と未来のアイデンティティ 「Cinema未来館」SFは未来のシナリオか?【CINEMORE ACADEMY Vol.11】
VRと人格の関係
Q:「アバターの振る舞いで、本人の人格も変わりそう」というコメントが来ていまして、少し変わる程度なら良いのですが、全然違う自分になるのではないかという不安があるようです。確かに僕も自分の顔が全然違っていたら、今とは違う性格になっていたのかなと思うのですが、アバターによっては、戻れなくなるほどの影響を受けることがあったりするのでしょうか。
久保:私もそこは心配してしまうのですが…若い方に聞くと全然平気みたいじゃないですか。宮田さん、Twitterのアカウントを何個お持ちですか。
Q:Twitterのアカウントは4つ持っています。
久保:そうですよね、みなさんそうやって複数持っていらっしゃって、それぞれ人格を使い分けていますよね。会社の人向け、プライベート向けとか。それが意外と皆さん平気みたいですよね。我々の10歳差くらいでも皆さん進化して適応されているから、アバターでも適応出来るようになるのだろうな、と思って眺めています。
Q:影響を受けて変わっていくというよりは、もう一つの新しい自分の使い分けというのが出来るようになっていくのでしょうか。
宮本:影響を受けるのかという問題はとても難しいですね。いつも新しいメディアが出てくると、必ずその暴力性のようなものが問題になりますよね。
その問題自体はずっと昔からあって、大衆小説が出てきた時も暴力的といわれていました。健全な詩とかを読んでいたほうが良いのではないか、といったように。
新しいメディアは、それだけ古いメディアに比べて影響力が強いと思われがちですよね。ですが、すぐそれに慣れるわけです。そういうことがずっと繰り返されている。
「ゲームが原因で犯罪に繋がるのではないか」というコメントもありました。その可能性を僕は否定できはしないのですが、とはいえ他が原因で犯罪に至るケースもあったと思いますね。昔は、小説が影響して犯罪を犯したと思われたケースも沢山あったと思うし、人間は常にあらゆるものに影響を受けて行動がかわるという話だと思いますね。
Q:コメントを見ていて、アバターがどんどん発達して皆が違うものになれて、それをいいねと受け入れてくれる世界になれば素敵だな、と思います。ただ、それが逆の方向に強化されてしまい、どんどんルッキズムが強くなってしまったら…という不安もあるのですが、そこはどう思われますか?
久保:今までは、どうしても生まれ持った見た目が評価に含まれていましたが、これからは作り上げたビジュアルアイデンティティで交流できるようになっていくので、すごくフェアだと思います。ある意味で評価ではあるのですが、努力が報われる世界なのでその方が良いと思うんですよね。
宮本:ルッキズムの問題というのは、綺麗であるかないかを人が勝手に決めて差別するとか、自分でこういう綺麗さを目指したいという努力に対して、否定をするということが問題点ですよね。つまり特定のかわいいという基準があること、そしてそこに向かって努力すること自体はルッキズムの問題ではないという。そういった一つの評価軸があってもいいですし、評価軸というのは沢山作っていいものだと思います。これは美人じゃないから駄目、と押し込めることが問題点なので。
最近のフェミニズム的な文脈でいうと、ガールズエンパワーメントといったものが注目されたりしていますが、自分たちがかわいいと言えることを大事にしていくのを、否定しないようにしたいですね。
Q:最後に、今日お話していただいて印象に残ったことなどあれば、一言ずつお願いします。
宮本:不安を感じられているコメントがすごく多かったですね。仮想空間に懐疑的なコメントとか。僕はそれが面白いと思いました。リアルと仮想現実を繋いでほしくないとか。今日見ていただいた『レディ・プレイヤー1』の中では、オアシスを利用している会社が権力を持っていて労働を搾取したりしていたので、そういうコメントが多くなったのかもしれませんが。
最近のOculusとFacebookアカウントの紐付け問題もそうで、VR空間とリアルがセットになりつつあるんですが、リアルとは別にVR空間がもっといくつも存在するような楽しい世界になっていったらいいなと思いながら、みなさんのコメントを楽しく拝見させていただきました。
久保:こう見ていくとたしかに不満のコメントがありますね。そのズレというのを拾い上げていくことが大事だと思います。宮本さんがおっしゃっていた、『レディ・プレイヤー1』のオアシスはある意味80年代の考え方で止まっていたVRなのだということに、凄く納得しました。
この映画を作り上げたこと自体とてもすごいことですが、今後また更新されたVR世界のイメージを作ることの出来る人が、いつ出てくるんだろうなとワクワクしますね。
宮本:女子高生コミュニティや盛りコミュニティのVR版、オアシスのようなデコログとかが出てきたら面白そうですね。
久保:そうですね。『レディ・プレイヤー1』というのは一つの切り口なので、いろんなVR世界が生まれるといいなと思っています。
Q:お二人とも、本日はありがとうございました。
次回は、10月25日(日)に行われた、スペシャルトークセッション「『ガタカ』から考える未来の命」をレポート。お楽しみに!
取材・文:山下鎮寛
1990年生まれ。映画イベントに出没するメモ魔です。本業ではIT企業を経営しています。
日本科学未来館
未来を考える映画イベント「Cinema未来館」
SFは未来のシナリオか?
2020年10月24日(土)〜 25日(日)