映画の全体像を見ていきたい
Q:写真家だったり映像監督だったりとクリエイターとしても活躍されている永瀬さんですが、役者として主観的に演じている時に、クリエイターの視点で客観的・俯瞰的にそのシーンを考えることなどはあるのでしょうか?
永瀬:最近やっと全体像が見え始めてきましたね。若い頃は自分のことで手いっぱいでしたから。普段からよく言っているのですが、自分の中だけで作り込んだ小さな宇宙を現場に持ってきて、それだけ披露して終わってしまうのはつまらないなと。監督の思い描いている宇宙や、スタッフや共演者の宇宙が集まって、大きな銀河系みたいになっているのが、映画なんですよね。それがある瞬間からふと見えてきた気がします。
でもそれも作品や監督によりますね。河瀨直美監督の現場では、もう客観視なんて全くできないですから。
(c)2021 『名も無い日』製作委員会
Q:確かに河瀨作品のメイキングなどを見ると、その片鱗が伺えますよね。
永瀬:河瀨作品では、登場人物“その人”であり続けなければならない。例えば、撮影の2〜3週間前からその役が住んでいる家に行って、その役として実際に生活しますから。撮影中も、お芝居の「お」の字が出るとすぐ監督にばれて指摘されますね。演じる役としての行動は何でも許されるのですが、お芝居をすることは許されない。
そういう特別な場合はあるのですが、それでも普段は、極力その映画全体を見たいなと、そう思うようになりましたね。