美術監督・今村力の世界観で暴れさせてもらっている
Q:スタッフでいうと、白石監督の作品において、美術監督の今村力さんは欠かせないですよね。毎回、作り込みや“汚し”の演出に惚れ惚れさせられます。
白石:僕の作品の世界観を作ってくれているのは、ほとんど今村さんのおかげですね。大島渚監督の作品に美術監督の戸田重昌さんがいたように、映画の方向性を作るのは美術監督だと思います。自分もいつかそんな存在にめぐり合えたらいいなと思っていたら、幸運なことにキャリアの初期に今村さんに出会えた。僕の意識としては、「今村さんの世界観の中で暴れさせてもらっている」と思っています。
『孤狼の血 LEVEL2』の原爆ドームのカットとか、「あのシーンでこんなの作るの?」と驚かされましたが、今村さんが「上林を示すために必要だ」と。いわば、クオリティ管理を行ってくれているんですよね。クオリティを管理するプロデューサーはいないから監督が自分でやらなければならないのですが、一人ではできない。今村さんは僕とは違って完ぺきにこなしたい方だから、本人にそのつもりがなくても結果としてクオリティ管理になっている。本当に重要な存在です。
『孤狼の血 LEVEL2』© 2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会
Q:今回においては、美打ち(美術の打ち合わせ)等で細かくイメージのすり合わせを行ったのでしょうか。
白石:というよりも、僕が今村さんのアイデアを使いきれているのか……。これまでもずっと一緒にやってきましたが、最大で3割しか生かせていない気がします。あらゆることに対してアイデアをくださるので、それで僕がジャッジできている部分もあります。
普通の美術監督って、道のロケハンなんて来ないんですよ。作るものがないから。でも今村さんは来るし、すごくこだわる。最近、ようやく今村さんの経験をちょっとずつ吸収できてきて、合うようになってきました。僕がこの10年やってきたことは、今村さんの映画的嗅覚を最大限生かすチーム作りなんです。撮影部は毎回新しい人とやってみたいのですが、美術に関しては今村さんや、そのお弟子さんと一貫してやっています。今村さんはもうすぐ80歳ですが、まだまだ頑張っていただきたいですね。
Q:『彼女がその名を知らない鳥たち』のときに、蒼井優さんが「あの空間に入るとスイッチが入る」といったような“空間の力”について話されていました。白石監督×今村さんの作品は、役者さんが演技に入り込みやすい空間でもあるのかなと。
白石:めっちゃ意識していますね。『彼女がその名を知らない鳥たち』では、引き出しの中に阿部サダヲさん演じるキャラクターの小中学生時代の学生証が入っているんですよ。本人からコピーをもらってね(笑)。「そこまで映らないよ」と伝えても、今村さんは「役者が何気なく開けるかもしれないでしょ」と言うんです。
Q:黒澤明監督の『赤ひげ』(65)の現場を彷彿とさせるエピソードですね!
白石:本当に、そのレベルの話だと思います。そこまで考えてやる人っていないと思うし、いま僕らは今村さんの映画作りをギリギリ学んでいる状態なんですよね。それを下の世代に伝えていくのが、僕らの役割だと感じています。