『その日、カレーライスができるまで』主演:リリー・フランキー × 監督:清水康彦 × 企画・プロデュース:齊藤工が目指す、“大人の事情”0%の映画制作 【Director’s Interview Vol.139】
齊藤工×清水監督×小林Pが見せた、日本映画の新たな可能性
Q:いまリリーさんがおっしゃった“変化”は、齊藤さんご自身も実感しているのでしょうか。
齊藤:そうですね、それは思います。
清水さんは、10年以上前に金子ノブアキのソロプロジェクトの「オルカ」というアルバムのMVを撮っていて、それがめちゃくちゃ格好いいんですよ。深夜から明け方になっていく海辺を車のヘッドライトで照らされながら歩くという、“逆マジックアワー”のような時間帯を収めたものなんです。
金子ノブアキ「オルカ」
最初に作品に魅せられている部分も大きいかと思いますが、僕は監督できないけど清水さんが撮ったらどうなるんだろうという想像が掛け算になって、自分単体じゃなくなっていく。そうすると、自分の役割なんてどうでもいいじゃないかと思えるんです。
それは、元をただせばリリーさんの映画に対する立ち位置に影響を受けていますね。僕らみたいなプロジェクトにリリーさんが参加して大いなる後押しをしてくださることが、まさにそうですし。
ワンモードじゃなくていいんじゃないか、作品にとって正しい距離をとることができればそれでいいという考え方になったのは、清水さんに出会ってからだと思います。
リリー:役者という立場が残っていると、企画を実現する際にフットワークが悪くなるところを、小林さんと清水さんの瞬発力で形にできている。それはすごく現代的なものづくりの仕方だと思いますね。すごくいいパートナーだと感じます。このペースでやり続けたら、今年の大谷みたいに、どんどん調子が良くなってくるんじゃないかな。
『その日、カレーライスができるまで』© 2021 映画『その日、カレーライスができるまで」製作委員会
Q:清水監督は、齊藤さんとのコラボレーションの中で映画の比重が強くなってきた部分もあるかと思いますが、ご自身の中では変化はありましたか?
清水:ちょうど僕自身、次に何をやろうか模索していた時期だったんですよね。20代はミュージシャンを主に撮っていて、後半で企業広告が増えて、なぜか「洋服がわかるやつだ」と勘違いされてファッションのほうにも行ったんですが、だんだん映像の中で自分の想いが消化できなくなってきたときに、パッと工くんに出会ったんです。それもあって、素直に「やりたいな」と映画の世界に飛び込めました。
実際にやってみたら、以前に感じていた映画の撮りづらさは飛び越えていけましたね。本当はもっと簡単じゃないんだろうけど、少なくとも僕は難しさを感じずにやれました。
リリー:このスリーアミーゴスが日本の旧態依然とした撮り方を変えていくのは、すごくいいことだと思いますね。だってこの映画は、2日半で撮って4カ月後に劇場公開ですから、革命的ですよ。いまは大作を3日間で撮るのは難しいかもしれないけど、こいつらならいつかやりそうじゃないですか。半分インディペンデントなメジャー作品が生まれる可能性を感じます。
いまは本当にメディアもチャンネルも多様化していて過渡期ですし、その中で「選ばれる」ものをつくるためには、やっぱり作り手たちに“想い”がないとダメだと思うんです。そういうのって観る人に一番伝わるんですよね。