『その日、カレーライスができるまで』主演:リリー・フランキー × 監督:清水康彦 × 企画・プロデュース:齊藤工が目指す、“大人の事情”0%の映画制作 【Director’s Interview Vol.139】
エゴを持っていない人たちの集まり。だから現場がスムーズ
Q:『その日、カレーライスができるまで』はしっとりした話でありながら、特に前半はジャパニーズホラー的な暗さやじめっとした感じを意図的に作っていますよね。非常に新鮮でした。
清水:モチーフとして「死」があるので、そこにどうやって主人公の男が向かっていくのかを見せられるよう、特に最初の段階では雨の描写含めて「死から抜け切れていない」感じを強めていますね。シーンが進んでいくごとに感じ方が変わるような構成は目指しました。
リリー:特に前半、お客さんは「あれ、ホラーなのかな?」とほぼ100%感じるかと思うけど、逆にミスリードさせていく演出はすごくいいなと感じましたね。ワンシチュエーションのひとり芝居だから、ともすればすごく飽きやすい題材だと思うんです。そこで、上手い具合にミスリードすることで、新鮮さが保たれていく。最初からセンチメンタルだと、それはそれで重いですし。
清水:お客さんの“深読み”を信頼して作っていきましたね。
『その日、カレーライスができるまで』© 2021 映画『その日、カレーライスができるまで」製作委員会
Q:コロナ禍に入ってひとり芝居モノの作品も増えましたが、本作はまた一味違ったところを目指しているように思えました。それこそ、いまお話しされたような“信頼”につながるのですが、「能動的にお客さんが存在する、劇場空間を想定したつくり」といいますか。
清水:実は最初は不安で、笑えるシーンをもっと入れたほうがいいんじゃないかと思っていましたし、金沢知樹さんの脚本にもその要素はありました。普通の映画と勝負すると負けそうだなという気持ちもあったんですよね。それを先輩(リリー)に持っていって、色々意見をいただいて削いでいきました。
リリー:『ペンション・恋は桃色』(20)のときもそうでしたが、清水さんは「次のシーンをどうしようか」とすごく言いやすい監督なんですよね。それはやっぱり、彼の中に「編集するのは俺だからな」という確固としたものがあるから。だから摂取するところはするし、意見がぶつからない。だからよくある「役者と監督のプライドがぶつかり合って現場が止まって、これ何待ちですか?ってなる」状態は一切なかったですね。
清水:それはすごく意識して避けてます(笑)。
リリー:監督も役者もどこかでエゴを持っていないといけないものかもしれないけど、それをさほど感じさせない人たちの集まりだったのは大きいよね。だから純粋にものづくりの中で、「この作品がどうなっていくことがベストか」という話に集中できる。