スーパーマリオネーションへの愛
Q:まさにその悩まれたところをお聞きしたいです。3つの新エピソードありきでの依頼だったかと思いますが、(ある意味手をつけるところが少ないと思いますが)見せ方のアイデアはどうやって出てきたのでしょうか?
樋口:「サンダーバード」というものは、映像表現としてものすごく特殊なんです。「スーパーマリオネーション」と称する人形劇なのですが、その割には扱っている題材がリアルで、本来なら『007』などでやるようなハリウッド的なエンターテインメントを、わざわざ人形でやっている。でも、映画のスケールでやったらとんでもない予算が掛かってしまうところを、人形劇であるがゆえに、毎週作ってテレビ放送することができたんです。
ただそれは、なぜか定着しなかった。サンダーバードを手掛けたジェリー・アンダーソンたちが作る作品は、プリミティブな人形からどんどんリアルな人形に進化していって、5年後に作った「謎の円盤UFO」(70)というドラマでは、今まで人形を使っていたお芝居の部分が全部実際の人間で撮られるようになってしまった。人形劇という手段は、実は人間で撮りたかったものの代償行為だったのでしょうか? 最終的には人形をやめて人間になってしまうんです。
「謎の円盤UFO」オープニング
でも人間になったら、世の中にあるものと変わらなくなって差別化できなくなる。やっぱり良かったのは人形だったのではないかということに、作っている本人たちも気づくし、観ている僕らもそこで初めて学ぶんです。もちろん「謎の円盤UFO」自体は素晴らしいんですよ。でもやっぱりサンダーバードの持っているキャラクタードラマとしての魅力に比べると、ちょっと落ち着いたものになっちゃってる。
実はこれは自分たちも似ているんです。日本の特撮でよりいい物を作ろうとして、昔やっていたことをやり方込みで全部変えて来ちゃった。でもそうすると、今までのやり方が全くできなくなっちゃう。それをもう一回戻すわけにもいかず、どうしたらいいのだろうと、答えも出ないままに、この10年位ずっと仕事をして来ているんです。
一方イギリスでは、昔の素晴らしさをどうやったら残していけるのか、真剣に考えて今回のサンダーバードを作っている。今回は、21世紀に作られた新作のはずが元のサンダーバードの時代に撮ったものにしか見えない(笑)。そういうところも含めて、スーパーマリオネーションというジャンルをとても大事にして愛している。人形の魅力に取り憑かれ、昔と同じやり方で作りたいという思いのもと、今回の新作が生まれたんです。
『サンダーバード55/GOGO』Thunderbirds ™ and © ITC Entertainment Group Limited 1964, 1999 and 2021. Licensed by ITV Studios Limited. All rights reserved.
だから、今お話しした複雑な文脈みたいなものも“込み”で、価値があるものだと思うんです。この新作を最初に見て感動したのは、当時のスタッフを呼んでまでして、よくぞここまで再現したなということでした。だから、昔観ていた人にも初めて観る人にも、その感激を伝えたい。この愛みたいなものを共有して欲しいんです。
それには、新作3本をそのままつないだだけだと伝わりにくいと思ったので、今回のような構成を考えました。パンフレットや資料として後付けで伝えるのではなく、あくまで映画としての体験として、今お話したようなことを感じて欲しいなと。