自主制作の域を超えたこだわりの現場
Q:先ほど「デヴィッド・フィンチャー」の名前も出ましたが、画角や画作りにはかなりのこだわりを感じます。絵コンテなどは描かれたのでしょうか?また、撮影の井村さんとはどんなことを話されて撮影に臨まれましたか?
狩野:各シーンのキービジュアルと割本をスタッフに見せて方向性を伝えていました。撮影の井村さんと照明の慶野さんは、これまでずっと一緒にやってきたので、僕の好きなライティングや画角を熟知してくれているんです。あとは現場で調整しました。自分は映像の撮り方から何から現場で全部コントロールしたいタイプなんです。スタッフはそれを受け入れて、更に120%で返してくれる優秀な方たちなので、そういったかけ算が現場で起こっていた感じですね。
Q:カメラは1台ですか?
狩野:2カメで撮ることが多かったです。場所によっては3カメで撮ったシーンもあります。
Q:日本映画の場合には(予算の関係もあり)1カメで撮ることがほとんどだと聞きます。もう1台のカメラは監督が回していたのでしょうか?それともそれぞれにカメラマンが付いたのでしょうか。
狩野:それぞれカメラマンが付いていました。特機も撮影部が兼ねてくれたので、撮影部だけでもかなりの人数が現場にいました。カメラはRED DRAGONをメインで使い、当初リリースされたばかりのRED Weaponも使っていました。
Q:こだわりは撮影体制にも反映されていたのですね。また、アングルについてですが、顔のアップなど寄りの画の比重がかなり多く感じましたが、その意図があれば教えてください。
狩野:今回は窮屈なくらいの寄りを意識的に入れました。それは、人間の弱さや胸に抱え込んでいる圧迫感みたいなものを感じさせたかったから。日本映画って「場」や「空気」を撮っているところがあると思うんです。「空気」を撮るということは、そこに出てくる「人間の心情」を撮るということ。そこを重要視しつつも、その「空気」を人間からだけではなく「撮り方」でもコントロールしたかった。そういう意味でも画角はかなり意識して撮りましたね。
Q:カメラは2~3台ということですが、照明はどんな規模だったのでしょうか。
狩野:シーンによっては結構な規模感でライティングしてもらいました。一番大規模だった歩道橋のシーンでは、その周辺一帯に雨を降らせて全体もライティングしています。また、主人公が線路沿いを走り抜けるシーンは横移動で撮っていて、そこも走る範囲全てにライティングしています。しかもそこでも雨を降らしている。もはや自主制作の規模ではなかったですね(笑)。
『その消失、』(c)「その消失、」製作委員会
Q:雨の規模が大きいので、雨の日を狙って撮影したのかと思っていました。また、ナイトシーンでは地面がちゃんと濡れていて街明かりが反射している。そこも仕込んでいるのでしょうか。
狩野:そうですね。そこも広範囲で水を撒いています。新橋で撮ったシーンでは、写っているお店の方に許可を取って、店の前に水を撒かせてもらいました。また、その場にいた一般の方にお声がけさせていただき、出演してもらったりもしています。
Q:新橋で街明かりがついているときは、一番混んでいる時間帯ですよね。
狩野:まさに一番混んでいる時間帯に撮らせていただきました。しかも、血だらけの男性と女性がそれぞれ歩くシーンを撮っています(笑)。おかげで「よし!ここだ」というところで撮ることが出来ました。
Q:これまでに培った経験値が色々と活かされていますね。
狩野:映画館で観てくださったお客さんからお話を伺うと、今までの日本映画とは違う雰囲気を感じてくれていて、とても嬉しかったです。自分の培ってきたものがそこにちゃんと出せたのかなと思いましたね。