絶対的にブレない“感覚”
Q:師匠の石井克人さんからは、何かアドバイスはありましたか。
狩野:信頼して任せてくれる方なので、内容に関しては特に何も言われていません。僕は助監督として石井さんの作品にずっと関わってきたので、石井さんからは「監督としての立ち回り」が学べたと思っています。
石井さんって本当に仲間に愛されている監督なんです。一方で、仲間に対して自分の意思を貫く姿勢も持っている。それでも愛されるのは、石井さんの人間性であり且つ自身が持っている演出論やセンスをブラさないこと。「こんな映画は違う」「こんな映像は良くない」と言われたとしても、それを全く気にしないような人なんです。それでいて仲間をちゃんとリスペクトしている。僕はそんな石井さんを見て学んできたので、僕も仲間と仕事をするときは、お互いにリスペクトし合えるような関係を心がけています。今回もそこを重視して、仲間とディスカッションしながら映画作りが出来ました。そこはまさに師匠から得たものだと思いますね。
『その消失、』(c)「その消失、」製作委員会
Q:自分の表現したいことを貫くこと、大勢のスタッフとコミュニケーションを取って映像を作ること、この二つを両立させるのは大変だと思います。それでも映画監督のみなさんはそれを両立させ、映画を作り続けているんですよね。
狩野:一昔前と比べると、その両立の部分はかなり繊細なバランスを求められるようになりました。すごく難しいですね。監督がすごく太いベクトルを出している中で、それに対して演技や撮影や美術など色んなスペシャリストたちがアイデアを出してくる。そのときにそれをどう組み込むかは監督の考え次第。僕がこれまで見てきた監督たちは、そんなときはスタッフと会話しながら進めていく方が多かった。ただし、周囲のアドバイスを受け入れて成立させるためには、絶対的にブレない感覚を持っていることが必要。そこがブレなければ、色んなアイデアを足していってもマイナスにはならないんです。
その点では自分で脚本を書いているところがすごく有利だと思います。脚本を書いていた時点で固まったものを大事にしつつ、それをブラッシュアップしていく方法であれば、自分の表現したいことを貫くことと、大勢のスタッフとコミュニケーションを取って映像を作ることは両立できると思いますね。