ほぼ自主制作で作られた映画『その消失、』。特筆すべきはハイレベルな映像表現。画角や色調、カメラワーク、そして美術など、スクリーンの隅々まで冴え渡った妥協のない画作りは、自主制作映画の域を優に超えている。また、徐々に全貌が明かされていく全体構成からは、ストーリーテリングへのこだわりも伺える。
手掛けたのは、本作が長編映画デビュー作となる狩野比呂監督。石井克人監督に師事し、映画業界とCM業界でキャリアを積んだ狩野監督、その経験は今回の映画製作にどのように活かされたのか? 話を伺った。
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自分たちがやりたいようにやりたかった
Q:映画の公開は今年の2月でしたが撮影は5年以上前だと聞きました。公開までの道のりは長かったですね。
狩野:ほぼ自主制作だったこともあり、撮影や編集などの制作自体に時間がかかっていました。そこから映画祭に出品するのにも時間がかかり、映画祭から戻って来たらコロナ禍になり…、それに伴い公開も遅れてしまった。結果すごく時間がかかってしまいました。
Q:ほぼ自主制作だったとのことですが、映画制作のきっかけを教えてください。
狩野:今はCM業界を中心に仕事をしていますが、その前は主に映画業界にいました。その頃から多くの仲間と仕事をしていたのですが、皆で「自分たちで映画を作りたいね」と話をしていたんです。書き溜めていた脚本がたくさんあったので、その中のどれを映画化しようか仲間と相談しました。ただ、どの脚本をやるにしても自分たちがやりたいようにやりたかった。それがもしスポンサーがつくことで出来なくなるのであれば、自分たちのお金でやろうと。それでスタッフがボランティアで参加してくれたり、僕の所属事務所(ナイスレインボー)が助けてくれることになりました。それゆえ完全な自主制作という形ではないのですが、自由にやれる映画を作ろうと始めたのが自主制作のきっかけですね。
『その消失、』(c)「その消失、」製作委員会
Q:脚本はすでにあった中から選ばれたんですね。
狩野:自分がやりたいことや関わってくれる仲間たちなど、いろんなことを総合して考えた結果「その消失、」を選びました。「その消失、」は元々舞台劇にしようと思っていたシナリオだったので、映画用に結構書き直しましたね。