(C)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『ターミネーター』はなぜ古びない?時代を超越する「恐怖」と「構成力」
「変容」するT-800
T-800という“敵”をお化け的な「倒しようがない」存在にせず、「倒しようがある(のに、強すぎる)」機械にした部分も、『ターミネーター』の優れた功績。
このT-800は、ダメージを受けることで外見が変容していく。瞬時に回復したり、物理攻撃をすり抜けるような特殊能力はない。つまり、こちらの攻撃はちゃんと効くのだ。だが、止まってくれない。いつ終わるともわからない「持久戦」が、じわじわと主人公と観客の恐怖をあおっていく。
ここで、本作でのT-800の描かれ方を見ていこう。
実は、35分過ぎまでT-800が何者であるのか(機械仕掛けの人造人間という正体)は明示されない。見た目は人間だが、得体のしれない“何か”――そんな不気味な存在に映るよう、綿密に設計されているのだ。
『ターミネーター』(C)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
その後、37分ごろになって初めてT-800の「視界」が示され、観客は「コイツは機械なのだ」と確信を得る。そして彼の身体から湯気が立ち上り、変声機能を披露し、どんどんと“機械感”が強調されていく。40分ごろになるとようやくターミネーターが何か、の説明が入り、人間とT-800の戦闘が加速。炎に包まれたT-800は眉毛がなくなってより禍々しい存在へと変貌し、フロントガラスを破壊するなど破壊力がエスカレートしていく。
極めつけは、52分過ぎから始まる手術シーン。T-800はつぶれた目玉をくり抜き、腕を切開し、55分ごろにはサングラスとレザージャケットを身に着ける。そしてショットガンと機関銃の二丁スタイルと相成り、59分には「アイル・ビー・バック」の名ゼリフが飛び出す。『ターミネーター』の上映時間は108分だから、全体の半分以上かけてT-800のキャラクター形成を行っていることになる。ちなみに、象徴的なメタルの身体になるのは90分過ぎだ。
こうして見ていくと、T-800の身体にはダメージが蓄積され、全体を通して変化し続けていることがわかる。「変わり続ける形状」と「変わらない執念」。目的を遂行するまでは動きを止めない機械の「恐ろしさ」を見事に表現したキャラクターといえよう。